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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『台所のラジオ 』吉田篤弘(著)
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本の概要(あらすじ)
「ラジオを聴いていたのだ。台所で」
定番の紙カツ、思い出のビフテキ、変わらないミルク・コーヒーと、夜中のお茶漬け・・・
変わってゆくものと、変わらずにそこにあるもの。
台所のラジオから聴こえる静かな声に耳を澄ませ、彼らの物語ははじまるーー。
ゆるやかに繋がる12の短編小説集。
3つの特徴
不思議な12の物語
不思議で、静かで、ゆるやかに繋がっている12のささやかな物語。
男性と女性が交互に主人公となり、淡々と物語を語ります。
- 「紙カツと黒ソース」
- 「目薬と棒パン」
- 「さくらと海苔巻き」
- 「油揚げと架空旅行」
- 「明日、世界が終わるとしたら」
- 「マリオ・コーヒー年代記」
- 「毛玉姫」
- 「夜間押しボタン式信号機」
- 「<十時軒>のアリス」
- 「いつか、宙返りするまで」
- 「シェロの休息」
- 「最終回の彼女」
ラジオの静かな声、エスプレッソ・マシーン、名探偵シュロ、人工降雨機・・・
別の作品に登場する人物やキーワードもほんのりリンクしているので、他の物語を読んでから再度読んでみると、新たな発見があるのでオススメです。
個性的な登場人物
- <悲しみをしまい込む箱>をつくり続ける相楽君。
- <抜き打ち検査官>として働く彼。
- <ひとしらべ>という不思議な仕事をしている西島君。
- 昼間は図書館で働き、日が暮れたら<夜の自転車乗り>になる男。
- 謎の食堂<十時軒>の店主・アリス。
- <女優洗浄機>を欲しがる美咲さん。
主人公、あるいは主人公と関わる人間たちはみんな、どこかしら風変わり。
「抜き打ち検査官」や「ひとしらべ」など、不思議な職業も登場します。
個性豊かな内容ですが、すべての物語に共通しているのは「台所のラジオ」
ラジオから聴こえる静かな声が、いろんな”何か”を抱える彼らの行動を導いてゆきます。
魅力的なたべもの
台所のラジオの他にも、12の物語にはもうひとつ共通点が。
それは、「食べ物」です。
さらっと出てくる食べ物の描写が印象的で、どことなく懐かしさを感じるものが多いような気がしました。
丸山レストランの「紙カツと黒ソース」、まぐろとたまごとかんぴょうの「海苔巻き」、ハシモトの「ビフテキ」、マリオの「ミルク・コーヒー」、中華屋の「ソース焼きそば」、十時軒の「生姜焼き定食」、夜中に食べる「お茶漬け」・・・
ハイカラな食べ物というよりは、日常になじんだ食べ物ばかりで、なんだかほっと癒されます。
特に食べてみたいと思ったのが、一話目と最終話で登場する「紙カツと黒ソース」。
紙カツの肉は厚さ三ミリほどのロース肉で、脂身はすっかり取り除いてある。衣のパン粉はきわめて肌理が細かく、薄衣をまとうが如くからっと揚げてある。これにカジワラ印の黒ソースをかけると、じゅっと音がして、きつね色がソースの黒に染まり、さらに香ばしい湯気が皿からたちのぼる。
本の感想
吉田さんならではのちょっと不思議で印象に残る言葉たちが存分に詰まった一冊。
私のお気に入りは、「さくらと海苔巻き」と「マリオ・コーヒー年代記」。
あとがきに記してありましたが、どの物語も「始まりのところ」を描いていて、起承転結の「結」の部分までには至らない、そんな短編集です。
最後まで読み終えると、登場人物も物語も頭からするりと消えていき、心地よさだけがいつまでも残る。
静かで不思議で幻想的な吉田さんの世界に、“美味しい”が加わった小説。
静かな夜に、台所で小さくラジオを流しながら読みたい一冊です。
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印象に残った言葉(名言)
「ぼくは、悲しみをしまい込む箱をつくりたい」
「白いパンだけでは、自分の中の黒いものが消されてしまう。それではいけないよ」
「おそらく男も女も年寄りも子供も、すべてのひとを笑顔にできるのは旨いものだけだ」
「競うことでしか、あたらしい強い力が生まれてこないのなら、わたしはそんなもの欲しくない。誰かより速く走りたいともおもわない」
「ひとりでいることを紛らわせるために、わたしは料理をします。料理をしているあいだは無心になれるのがいいんです」
「だって、わたし、じつは本物のアリスなのよ」
「何かを見つけることだけが大事なのではなく、何も見つからないこともひとつの結論なのだと思う」
吉田篤弘さんの作品
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