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【No.56】~どこか奇妙であたたかな縁が、深夜の東京で交差する幻想的な物語〜 『おやすみ、東京』 吉田 篤弘(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『おやすみ、東京』吉田篤弘(著)

最近買ったばかりの吉田篤弘さんの小説。

今度はどんな物語なのか、ずっと楽しみにしていました。

深夜の東京を舞台とした、静かでやさしい物語です。
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本の概要(あらすじ)

「新鮮なびわを、ひと房でいいんだけどーー」

 

とある映画会社で<調達屋>として働くミツキは、深夜に「果物のびわ」を探すように頼まれた。

 

おなじみのタクシー<ブラックバード>の運転手・松井さんに、助けを求めたのだったが・・・。

 

月の照らす東京を舞台に、さまざまな事情を抱える人たちが、いろんな場面ですれ違う。

 

12のささやかで少し奇妙な物語。

3つの特徴

12の不思議な物語

12の連作短編集が連なって、深夜の東京を舞台にしたひとつの物語になっています。

・「びわ泥棒」映画会社で小道具を調達しているミツキとびわ泥棒の物語

 

・「午前四時の迷子」<東京03相談室>のオペレーターをしている冬木可奈子と「使わなくなった電話」を回収するモリイズミ(苗字)の物語

 

・「十八の鍵」深夜の映画館に行くためタクシーに乗った、十八の鍵を持つ私立探偵の物語

 

・「ハムエッグ定食」食堂<ヨツカド>を営む、サキ・ヨリエ・フミナ・アヤノの物語

 

・「落花生とカメレオン」ピーナッツ・クラッシャーを探すミツキと奇妙な古道具屋の物語  etc…

ひとつひとつの物語がまるでパズルのピースのようで、物語が進むごとに少しずつはまっていき、ひとつの作品に完成します。

「いや、もしかするとです。もしかして、僕は自分のポケットの中にジグソーパズルの最後のひとかけらを隠し持っているかもしれない、といまさらのように気づいたんです」

はたして「ジグソーパズルの最後のひとかけら」は、いったいどこにあるのでしょうかーー?

奇妙な古道具屋

この物語には、たくさんのユニークで魅力的なものたちが登場します。

小さな映画館、十字路の食堂、古道具屋、ピーナッツ・クラッシャー、コークハイ、ピンク色の電話、抜けない薬指の指輪 etc…

私のお気に入りは、下北沢にある古道具屋<イバラギ>。

深夜から早朝にかけて開店する、奇妙な古道具屋です。

「人間がつくったものは、壊れることで別のものに生まれ変わる」という持論を持つ、店主のイバラギ。

壊れた道具にあらたな名前を付けるのも、彼の仕事のひとつです。

なかでも印象に残ったのが、秒針が二本ついている「二台で正しい時計」。店主曰く、

「僕の考えでは、十五分遅れる時計と十五分進んでしまう時計が出会えば、ちょうど正しい時刻になるのではないかと」

二台で力をあわせて正しい時間を示しているから、「二台で正しい時計」。

こういった店主の独特の解釈が、物語の雰囲気によく合っています。

他にも、月がふたつ見える「月光増幅器」や、階段の踏み板「二階まであと一段」など、個性豊かなものたちが登場します。

この古道具屋がそれぞれの物語に介在することによって、彼らを一歩先へと進ませてくれているのです。

夜空いろのタクシー

深夜の東京の街を走るタクシー会社の名前は<ブラックバード>

夕方から早朝までを専門とする夜のタクシーで、車体の色は黒に近い濃紺、制服も黒を基調としています。

登場人物たちを乗せているのは、運転手の松井さん。

松井さんがタクシー運転手になったきっかけは、子どもの頃に読んだ童話です。

『車のいろは空のいろ』というその童話の主人公はタクシー運転手で、苗字が自分と同じ松井。

松井さんはその童話を、「タクシー運転手はこんなに楽しい仕事なのか」と夢中になって読んでいました。

読み終わって本を閉じ、あらためて表紙を眺めると、明るいブルーーー空色のタクシーに乗った松井さんが描かれていた。

これだ、と思った。自分はこの人になるのだ、と。

あとがきを読むまでは、著者の創作の童話なのかと思っていましたが、これは実際に存在する童話。

あまん きみこさん作で、昔は教科書にも載っていた有名な童話みたいですね。

著者もこの童話には幼心に感銘を受けたそうで、それが本作の着想のひとつにもなったそうです。

私も『車のいろは空のいろ』を読んでみたくなりました。

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本の感想

あたらしく読んだ吉田篤弘さんの小説『おやすみ、東京』

 

物語を読んでいるというより、深夜の東京の街で、さまざまな事情を抱えた人たちが出会ったりすれ違ったりするのを眺めている・・・そんな感覚でした。

 

徐々に物語がつながっていって、最後にはひとつの長編小説になります。

 

小さな映画館や十字路の食堂など、月舟町と重なる部分もありました。

 

月舟街シリーズは、幻想的な雰囲気漂うファンタジーという印象が強いですが、この作品は幻想的な雰囲気もありつつも、どこかリアリティも感じさせます。

 

深夜の物語なので、「東京」という大都会の喧騒を感じさせない、静けさが漂う作品です。

 

たくさん出てくる小道具も、物語に良い味を出してくれています。

 

深夜にコークハイを飲みながら、しっとりと読みたくなる一冊でした。

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印象に残った言葉(名言)

「さみしいことになってきたよ、東京の夜も」

 

「でも、もしかすると、人はひとつのことを極めると、そこからあらゆるものにつながっていくのかもしれない」

 

「そうか。後悔って、夢や希望と同じなんだ」

 

「思うに、コークハイこそ一番手ごろで一番おいしい飲みものだと思います」

 

「カラスは東京を懐かしんでやってくるんだって」

 

 

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
雰囲気
(5.0)
キャラクター
(4.0)
デザイン
(5.0)
総合評価
(4.0)

 

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