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【No.29】~名なしのスープをめぐる、やさしくてあたたかい物語~ 『それからはスープのことばかり考えて暮らした』 吉田 篤弘(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田篤弘(著)

この作品は、私が吉田篤弘さんのファンになったきっかけの小説です。

他にもたくさん著者の小説を読んできましたが、やっぱりこの作品が今でもいちばん好きです。

癒されたいときにおすすめの一冊です。

本の概要(あらすじ)

「それからしばらくスープのことばかり考えていた

 

青年が越してきたのは、路面電車がのんびりと走り、商店街のはずれにおいしいサンドイッチ店のある町だった。

 

彼はたびたび、隣町にある古い映画館<月舟シネマ>へと出かける。

 

サンドイッチ、スープ、映画、腕時計・・・

 

古い映画の女優に恋をした青年は、映画館であるひとりの女性とめぐり会うーー

3つの特徴

魅力的な登場人物たち

著者の作品に登場する人たちは、ひとりひとりが本当に魅力的です。

主人公の大里ことオーリィくん、アパートの屋根裏に住むマダム、サンドイッチ店の店主・安藤さんと息子・律くん、「月舟シネマ」のポップコーン売りの青年・・・

そして、主人公が映画館で出会ったひとりの女性。

ある街に住む人々の日常を切りとった、ささやかでのんびりとした物語。

あたたかくて、しずかで、やさしくて、ほんのりさみしい。

いろんな人たちの人生が溶け合った、なんともいえない心地よさを感じる小説です。

サンドイッチとスープ

商店街のはずれにある小さなサンドイッチ屋さん「トロワ」

町の人たちが抱えている、「3」と書かれた紙袋の中に入っているのは、トロワのサンドイッチ。

「3」の数字の意味、「トロワ」という店名の由来も、作中に書かれています)

ハムのサンドイッチ、きゅうりのサンドイッチ、じゃがいものサラダのサンドイッチ・・・

オーリィくんは、トロワで買ったサンドイッチを映画館で食べるのですが、映画をみることも忘れるほどのおいしさに衝撃をうけます。

サンドイッチの袋をあけてからはまるで映画が頭に入らなくて、ハムの香りに驚き、きゅうりの口あたりに魅了され、すべて食べつくしてしまった。

映画に夢中になるあまり、何を食べたか覚えていないことは何度かあったが、サンドイッチに夢中になってスクリーンが霞むなんて信じられない。

僕には人生が変わってしまうほどの味だった。

それからというもの、毎日トロワのサンドイッチを食べ続けるオーリィくん。

ついには、店主の安藤さんに頼まれ、トロワで働くことに。

耳を切りおとす係のオーリィくんだったが、ある日スープを作る係に任命される。

クラムチャウダー、ミネストローネ、かぼちゃのスープ・・・

試行錯誤を重ねても、いまいち納得のいくものが作れないオーリィくんは、ひょんなことから映画館で出会ったおばあさんにスープの作り方を教えてもらうことに。

教えてもらったのは、「名前のないスープ」

たくさんの食材を使った、けれどどれも主役ではない、”主役のいないスープ”だ。

作ってみたい方は、物語の最後に書かれている「名なしのスープのつくり方」をご参考に。

◎期待をしないこと

◎晴れていようが、曇っていようが、雨だろうが、スープはどんな空にも合う

◎とにかく、おいしい!

他にもクスッと笑えるようなつくり方がたくさん書かれているので、最後まで読んでみてくださいね。

主人公と恋と映画

物語にたびたび出てくるのが、隣町にある映画館<月舟シネマ>

この町に住もうと決めたのは、郊外の住宅地に似合った二両編成の路面電車がのんびり走っていて、歩いてもゆける隣駅の近くに、学生のころからよく通っていた古い映画館があったからだ。

輝くスクリーン、ぎしぎしいう椅子、ポップコーンのバターの香り・・・

月舟シネマのある月舟町は、『つむじ風食堂の夜』の舞台となっていた町です。

古い日本映画が好きなオーリィくんは、休みのたびに月舟シネマへ映画を観に行きます。

彼は五年ほど前に、映画の中のある女優さんにひとめぼれをしてしまったのです。

脇役ばかりの女優さんでしたが、彼女が出演している映画があれば、日本中どこへでも出かけるくらい彼女に恋をしているオーリィくん。

そんな彼がスープのおばあさんに出会ったのも、月舟シネマでした。

緑色の帽子を被り、涼しげな目元をした、チャーミングなおばあさん。

しかし、ある映画をきっかけに、オーリィくんは彼女の正体を知ることとなる・・・

ロビーを立ち去ろうとするその後ろ姿に口笛が重なって聞こえるーー

ずっと気づかずにいたことに、僕がようやく気づいたのはそのときだった

本の感想

一ページ目をひらいた瞬間に、絶対に良い!と確信した作品。

 

この作品を読んで吉田篤弘さんの小説にはまってしまった人が、私の他にもきっといると思います。

 

著者の作品には、他の小説にはない独特の雰囲気があるんですよね。

 

この雰囲気が好きな人は、他の作品も読まずにはいられなくなると思います。

 

ほんとうに素敵な小説なので、たくさんの人に読んでもらいたい一冊です。

 

あとがきにはこの作品についてや、月舟町シリーズの第一部『つむじ風食堂の夜』についても書かれています。

 

物語が生まれた経緯や舞台となった場所など、作品の裏側を知ることができるので、ぜひ最後まで読んでみてください。

印象に残った言葉(名言)

「教会が祈る場所であることを、僕はもう長いこと忘れていた気がする」

 

「昔の時間は今よりのんびりと太っていて、それを「時間の節約」の名のもとに、ずいぶん細らせてしまったのが、今の時間のように思える」

 

「仕事というのは誰かのためにすることなのだと当たり前のことに思い至った。その「誰か」をできるだけ笑顔の方に近づけることーそれが仕事の正体ではないか。それが仕事と呼ばれるものであれば、それはいつでも人の笑顔を目指している」

 

「あのね、恋人なんてものは、いざというとき、ぜんぜん役に立たないことがあるの。これは本当に。でも、おいしいスープのつくり方を知っていると、どんなときでも同じようにおいしかった。これがわたしの見つけた本当の本当のこと。だから何よりレシピに忠実に作ることがたいせつなんです」

吉田篤弘さんの月舟町シリーズ

次に読むのはこちら⬇︎

【No.39】~小さな映画館の看板犬と町の人々の物語<月舟町シリーズ>完結作〜 『レインコートを着た犬』 吉田 篤弘(著)

月舟町シリーズ一作目⬇︎

【No.6】~不思議な魅力あふれる、月舟町シリーズ第一作~ 『つむじ風食堂の夜』 吉田 篤弘(著)

月舟町シリーズ番外編⬇︎

【No.44】~子どもたちに伝えたい、大切なことはなんですか?〜 『つむじ風食堂と僕』 吉田 篤弘(著)

月舟町シリーズまとめ⬇︎

【吉田 篤弘(著)】〜月舟町シリーズ三部作+番外編の魅力と読む順番〜

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
雰囲気
(5.0)
料理
(5.0)
ほっこり
(5.0)
総合評価
(5.0)

 

 

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