※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています
今回読んだ本はこちら↓
村田沙耶香さんの作品の中ではめずらしく、爽やかな余韻に包まれる一冊です。
読み放題なら「Kindle Unlimited」
【“Kindle Unlimited”のおすすめポイント】
- 30日間の無料体験で気軽に始められる!
▶︎まずは無料でお試しができる - 月額980円で200万冊以上の本が読み放題!
▶︎いつでもキャンセル可能 - 好きな端末で本が読める!
▶︎Kindle、スマートフォン、ダブレット、PC等
本の感想
「何で、私が私の性格を、誰かに許されなきゃいけないの」
他人の目を気にしてしまう臆病な律と、他人の目に無関心な瀬里奈。
正反対の二人を通して、思春期の女の子の痛みをリアルに描いた物語でした。
学校という密室空間で生まれる残酷さや、ヒエラルキーの下層にいる律の自意識が丁寧に描かれていて。
主人公の律が抱える生きづらさは、自分のそれと通ずる部分が多くて、見ていて切ない。
ほんのささいな言動で自分の立ち位置が危うくなってしまう緊張感。
自分だけ内緒話に加えてもらえない不安やいたたまれなさ。
他の女の子たちがおしゃれに目覚め始めていると気づいたときの焦燥感。
女の子たちの容姿に点数をつけてはしゃぐ男の子たちの下品な笑い声。
そのひとつひとつの日常の描写が、なんだか妙にリアルで胸をざわつかせました。
一方で、そんな教室に渦巻く空気をものともしない瀬里奈もまた、こちらの理解を超える繊細さを抱えていて。
(瀬里奈は言動こそ自由奔放だけれど、実は外部からの刺激に敏感で苦しんでいる)
私は、律や私が感じている生きづらさこそが大多数が抱える生きづらさだと、無意識に思い込んでいたのかもしれません。
場面が変わり、大学生になった律がファミリーレストランでアルバイトをしている姿は、『コンビニ人間』の主人公と重なって見えて。
「今は仕事中です。私は店員です」という仮面は、私にとってはお給料よりずっと大切な授かりもので、それを装着すると、臆病な田中律はいなくなる。仕事として働くとき、いくらウエイトレスのスカートをはいていても、私は性別から解放されているような気持ちになれる。女として品定めされるのではなく、店をまわすための「駒」として品定めされるのだ。私はそれが心地よかった。誰よりも使える駒になりたかった。
村田さんの描く主人公の多くは、一人の人間としてではなく、“社会の部品”として役割を全うすることに安らぎを感じている気がします。
律は店員という「駒」に、瀬里奈はマリーという「役」になりきることで、なんとか生きづらい社会に溶け込めているのかも。
(瀬里奈は小学生のときからずっと、「くるみ割り人形」のマリーになりきって生きている)
意外に感じたのは、防衛本能を優先させがちな律が、自分の好きなものをちゃんと見つけているところ。
律のように人の顔色ばかりを窺ってきた私は、大人になった今でも自分の好きなものがわからずにいるので、律もそうなのだと勝手に思い込んでいました。
瀬里奈と再会したことで、吹っ切れたかのように好きなブランドのワンピースを着て走り出した場面は、なんだか爽快ですらあって。
洋服は一番わかりやすく他人の目に触れる部分なので、臆病なままの律だったら、絶対にできなかったことだと思うんですよね。
彼女の心の変化がここに一番表れている気がして、とても印象的でした。
つい人にどう思われるかを気にしてしまう律は、瀬里奈の奔放さに苛立ちながらも惹かれ、絵本の世界を泳ぎ続ける瀬里奈は、律のいる空間でだけは息つぎができる。
理解や共感ではないもので繋がる律と瀬里奈が、なんだか新鮮で、ちょっと羨ましい。
二人が無邪気に非常口を開くラストは、“彼女たちが閉鎖空間から抜け出せますように”という祈りが込められているかのような、どこか優しい終わり方でした。
村田作品だからぶっ飛び展開が待っているかと思いきや、爽やかな読後感が余韻に残る作品。
エグすぎない村田沙耶香さんの作品を読みたい方におすすめの一冊です。
文庫本はこちら⬇︎
電子書籍はこちら⬇︎
印象に残った言葉
「私は母に与えられたワークブックを開いた。母は、一ヶ月間で終わらせなさいと言ったけれど、私はこれを2週間で終わらせると決めていた。こういう小さなサービスを忘れないことが、今の居心地のよい家の雰囲気を守っていくための手段であるかのような気がしていた」
「学校という場所はスーパーのようなもので、私達は陳列されているのだと、私はようやく気づき始めていた。私達を評価するのは大人たちだと、私はずっと思っていて、いい子であるようつとめていた。けれど、本当の買い手は生徒たちの方だったのだ。そして、そのことにずっと前から気づいて準備していた子たちに、私はいつのまにかずいぶん置いていかれていたのだった」
「私は叔父さんがいつもとても親しげに話しかけてくるのが苦手だった。嫌な人ではないのだが、この人の考える子供像に、いつも私はあまり上手に当てはまることができないのだった」
「人との会話はワークブックに似ている、と私は思った。相手の性格や状況などを考えてできるだけ素早くどんな返事を求められているか把握し、的確な返答を考え出すのだ。そう思うと、前ほど難しいことではないような気がした」
「初対面の人と話すの大の苦手だったが、「仕事」だと思えば、明るく話しかけられる気がした。私にはそれが何よりも効果があるおまじないだった」
「息抜きしなきゃいけないほど、息苦しい場所から、どうして出ようとしないの?」
「協調性って?高いとえらいの?強調するってそんなにいいこと?」
「どうせ私は臆病だ。人目ばかり気にしてる。小さいころからずっとそうだ。瀬里奈が正しい。それがむしょうに腹立たしい。我儘で、自分勝手で、常識知らずなのに、個性的だねと言われて、受け入れられていく。私は駄目だ。いくらがんばっても、怖がって枠組みを出られない、つまらない女の子なのだ」
「周りと摩擦することをアイデンティティーにしてしまう子もいれば、私みたいに用心深く必死に空気を読んで、周りに合わせようとする子もいる。私はどちらでもない瀬里奈のことを考えていた」
「だって、洋服って、少し似合ってないほうが可愛いでしょ」
文庫本はこちら⬇︎
電子書籍はこちら⬇︎
コメントを残す