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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『抱擁、あるいはライスには塩を』江國香織(著)
本の概要(あらすじ)
「ライスには塩を」
東京にある古くて大きな洋館に住む、柳島家の一族。
「子どもは学校に通わせずに家庭で教育させる」という理念を持つこの一家でしたが、ある日突然父親の提案で子どもたちは小学校に通うことに。
外の世界に出て知った、自分の家はよその家とは違うということ。
着ているものも、言葉遣いも、価値基準も、遊び方もーー。
これまで「普通」だと思っていたことは、どうやらそうではないらしい。
風変わりな一族の愛と秘密にあふれた長編小説。
3つの特徴
柳島家の相関図
大きなお屋敷に三世代十人で暮らしている柳島家。
その相関図を表にしてみました。
彼らが一人ずつ順番に語りながら進んでいく物語。
時系列は一直線ではなく、現在と過去をバラバラに展開していきますが、その組み立て方が絶妙で先へ先へとページをめくってしまいます。
世代をこえて物語が紡がれていくので、柳島家一族の歴史をそのまま紐解いていくような感覚です。
ある時はお屋敷の内側から、またある時は外側の人間として。不思議な魅力にあふれた彼らを見ることができます。
この相関図だけを見るとごくごく一般的な家族に見えますが、実はこの表にはあえて書かなかった血縁関係も。
外部からは奇妙にも感じられる独特の家族のあり方。そのありのままを淡々と描いた作品です。
風変わりな一家
柳島家にはよその家庭とは違う、独自の価値観や理念があります。
子どもを学校に通わせない教育方針をもつ家族の中で育った陸子は、突然通うことになった小学校で、よその家との違いを初めて知ります。
よその多くの家では叔父さんや叔母さんが一緒に住んでいないこと。「産んだお母さん」と「いまいるお母さん」はたいていおなじだということ。子どもはたくさんテレビをみて育つこと。
そして何よりも大きな違いだったのが、「言葉」。
きちんと言葉を使って意思を伝えるよう徹底してしつけられてきた陸子にとって、小学校は幼稚で乱暴な「言葉の通じない」場所だったのです。
普通だと思っていた。これまでずっと、自分たち家族以外の家族のあり方など、想像もしていなかったのだ。
陸子たちが小学校に通っていたのは三ヶ月でしたが、このことは柳島家にとっての大きな変化となります。
どこがどうとは言えないくらいの微妙さで、それでもどこかが明らかに違っている。
しかもその変化は、彼ら自身にというよりは、彼らの見ている世界に起きたもののようで・・・
家族の証
作中には、たびたび柳島家特有のやりとりが登場します。
「みじめなニジンスキー」
「かわいそうなアレクセイエフ」
これは昔から彼らが使ってきた、家族にだけ通じる言いまわしで「かわいそうに」と言う意味の合言葉のようなもの。
「ライスには塩を」
これは無理に翻訳するのなら「自由万歳!」という意味の言いまわし。菊乃によると、大人になればお皿に盛られたごはんに、塩をかけて好きなように食べられる。だから、自由万歳、というわけなのだそう。
こういった不思議な言葉たちが、彼らがひとつの集合体に所属しているという証になっています。
奇妙ではあるものの、賑やかであたたかい雰囲気に満ちた柳島家ですが、物語が進むにつれて、だんだんと寂しい別れの予感が漂ってきます。
物語後半でそれが現実となったとき、なんとも言えない切ないような寂しいような、そんな気持ちになりました。
本の感想
「家族」という閉鎖的なかたまりを、内側と外側、両方から描いた作品。
風変わりな一家といえば、以前紹介した『流しのしたの骨』という作品がありますが、それと比にならないくらいの奇妙な一族。
大きなお屋敷に住む、高貴な人々。彼らはみんな丁寧で理知的で上品。しかし、一歩外の世界に足を踏み入れると、たちまち「変人」扱いをされてしまう。
一般的な社会とはかなりの隔たりが感じられる柳島家。
子どもたちが小学校でよそとの違いを知る場面は印象的で、自分が負けることは家族の敗北を意味すると必死に戦う様子は健気で愛おしくなりました。
そんな子どもたちも、成長するにつれて、だんだんと外の世界を知っていく。少しずつ、家族という集団から距離をとっていく。
それが当たり前のことだと知りつつも、どこか寂しく切なかったです。
江國さんの不思議な魅力にあふれる一冊でした。
江國香織さんの他の作品
【No.8】~静かな狂気と、果てない旅の物語~ 『神様のボート』 江國 香織(著) 【No.42】~風変わりでいとおしい家族の物語〜 『流しのしたの骨』 江國 香織(著) 【No.50】~少女と大人のあいだで揺れる女子高生の孤独と幸福を描いた物語〜 『いつか記憶からこぼれおちるとしても』 江國 香織(著) 【No.58】~奇妙な三角関係を描いた、すれちがう魂の物語〜 『落下する夕方』 江國 香織(著)印象に残った言葉(名言)
【No.42】~風変わりでいとおしい家族の物語〜 『流しのしたの骨』 江國 香織(著)「歴史は過去ではないのよ。いまも私たちは歴史のただなかにいるの」
「私の感じていたものは驚きでも嫉妬でもなくて、説明のつかないやすらぎと疲労だった」
「考えてみれば、この家のなか以外にある私の居場所といえば、昔から本のなかだった」
「本の外というのは本のなかにそっくりなのだ。いろんな人がいて、いろんな事情がある」
この本の総評
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