短編

【No.50】少女と大人のあいだで揺れる女子高生の孤独と幸福を描いた物語『いつか記憶からこぼれおちるとしても』江國香織(著)

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こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『いつか記憶からこぼれおちるとしても』 江國 香織(著)

ある女子校に通う女の子たちが主人公の物語。

爽やかな青春物語というよりは、淡々としていて時に切ない、江國さんらしい作風の小説です。

本の概要(あらすじ)

「私は緑の猫になりたいな。生まれかわったら」

10人の女子高生がおりなす、切なくて残酷な6つの物語。

少女と大人の間で揺れ動く、17歳の孤独やささやかな幸せを描き出した、短編小説集。

  1. 指
  2. 緑の猫
  3. テイスト オブ パラダイス
  4. 飴玉
  5. 雨、きゅうり、緑茶
  6. 櫛とサインペン

3つの特徴

10人の女子高生

恵まれた環境の子たちが多い女子校の、同じクラスに所している10人の女の子たち。

彼女たちの、いつかこぼれおちてゆくだろう記憶を綴った物語です。

父親が単身赴任をしていて、母親と二人暮らしをしている「菊子」

裕福で母親とは仲良しだが、夫婦仲がよくない両親と暮らす「柚」

生まれ変わったら緑の猫になりたい「エミ」と、親友の「萌子」

喫茶店でアルバイトをしながら、手帖の中で人を毒殺する「可奈」

学校でみせる顔は、彼女たちのほんの一部。

少女らしい部分もあれば、やけに達観している部分もあったりして、そのあやうさが繊細に描かれています。

テイストオブパラダイス

裕福な家庭で育ってきた柚に、ボーイフレンドができた物語です。

柚の通っている女子校は、いわゆる恵まれた家庭環境の子が多く、母親と仲がいい子もたくさんいます。

柚もそのうちの一人です。

あたしたちにとって、ママというのはお金と安心を両方持った親友なのだ。

柚とママは仲良しですが、ママとパパの仲は冷えきっています。

そんな両親を妙に客観的に眺めている柚。

ママはお金をつかうのが大好きだ。お金をつかうのは、ママの復讐なのだと思う。幸せじゃないから。

柚は将来通訳か翻訳家になって、男の人に頼らなくても生きていける技術を身につけようと決めています。

きっと、幸せそうじゃない母親の姿を見ているからだと思います。

そんな柚に友人の紹介でボーイフレンドができました。

いたって平凡な印象の男の子・吉田くん。

しかし彼のくれたあるものが、柚の孤独な心にそっと触れます。

それは元旦の早朝に行ったファミレスで、帰りがけに吉田くんが買ってくれた“小さなくまのプーのおもちゃ”。

自分でもすごくおどろいたのだけれど、あたしはそのプレゼントがすごく嬉しかった。すごくすごく嬉しくて、ばかばかしいくらいに胸にしみちゃって、あたしはこんなに一人ぼっちだったのかって思った。

母親が買ってくれる高い洋服や高級なディナーよりも、吉田くんがくれたその小さなおもちゃの方が柚の心には届いたのです。

何不自由なく恵まれているように見えていた柚のさみしさが感じとれた場面で、ぐっときました。

彼女たちが思うこと

小学生のときの親友が自分のどこを好きだったのか、自分はその子のどこを好きだったのかさっぱり思い出せない菊子は思います。

私はいつも、新しい人たちが好き。おなじ人たちとながくつきあうより清潔で安心な気がする。

母親と仲良しの柚は、ときどき母の考えていることがわからなくなります。

これはあたしが子どもすぎるのではなくて、ママが年をとりすぎているのだと思う。この二つはおなじじゃない。全然ちがうことだ。もしなにかをわかるのに子どもすぎるのなら、いつかわかるときがくる。でも、なにかをわかるのに年をとりすぎているのだったら、その人はもう、永遠にそれがわからないのだ。これはとてもかなしいことだ。とてもとてもかなしい。

柚が母親とランチをしているところをたまたま見た彩は、友達の可奈に電話でこう言います。

「随分ちがうなーって思って。べつにうらやましいとかじゃなく、だって母親とでかけるのなんて絶対ヤだし、だからべつに全然いいんだけど。でもただ随分ちがうなーって」

それぞれがみんな、何かを思ったり感じたりしながらそれを胸の内に抱えて生きている。

彼女たちの純粋でときにドキッとするような言葉が胸に刺さりました。

本の感想

はじめて読んだのがいつだったのか、もう思い出せないくらい前に読んだ作品です。

江國さんの作品はどれもそうなんですが、その物語のもつ雰囲気というか空気感が独特で、一度読むと忘れられないんですよね。

この作品も、ふとしたときに読みたくなります。

最初の頃はわりとさらっと読んだ気がしますが、大人になるにつれて、心にじんわりと染みる切なさを感じはじめました。

高校生の頃を思い出して、懐かしい気持ちになる人もいるかもしれません。

年を重ねるごとにぐっと深みが増すのも、著者の作品ならではだと思います。

静かな雨の日に読みたくなる一冊です。

印象に残った言葉(名言)

「女子校は不思議だ。気楽で、それでいてよそよそしい。制服のせいかもしれない。制服は、一人ずつの生活をすっかりみんな隠してくれる」

 

「一旦死んでから生きると、楽なんだな、これが」

 

「世のなかは好きな人ときらいな人っできているわけじゃなく、好きな人と、どうでもいい人とでできているのだ」

 

「どんなにいいものだって、欲しいときに手の届くところになかったら、役に立たない」

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