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【No.31】~ひとりひとりの恋のかたちを描いた連作短編小説〜 『ボーイミーツガールの極端なもの』 山崎 ナオコーラ(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『ボーイミーツガールの極端なもの』山崎ナオコーラ(著)

著者の名前は前から知っていたのですが、なんとなく読む機会がなく今日まできてしまいました。

ペンネームの由来は、「コーラが好きだから」らしいですが、じゃぁナオの部分は?と思って調べてみたら、本名が山崎直子さんなんですね。

”山崎直子+コーラ” で山崎ナオコーラ。

どんな小説を書く人なのか気になっていたので、今回たまたまこの作品をみつけられて良かったです。

こってりした恋愛小説が苦手な方、植物が好きな方におすすめの一冊です。
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本の概要(あらすじ)

「絶対的な恋なんてない」

 

9つの短い物語を綴った、連作短編小説。

 

野球選手の妻になりたい大学生、さようならを言ったことがない青年、付き添いがいないとテレビに出られないアイドル・・・

 

年齢も、性別も、境遇も異なる男女が出会い、恋をし、ときには別れを経験する。

 

不器用でも、不格好でもいい。

 

ひとりひとりの恋愛を、生き方を、そのまま肯定してくれる優しい一冊。

3つの特徴

極端な人々とサボテン

この作品では、ひとつの物語につきひとつのサボテンが登場します。

この設定を知らずに読んだ私。

最初のページがいきなりサボテンの写真だったので、「あれ?間違えて植物図鑑読んでる?」と焦りました。

物語の主人公たちは、みんなそれぞれに”極端な部分”をもった人たち。

サボテンもまた、主人公にぴったりの極端な形をしたものばかりです。

サボテンについての知識はまるでなかったので、こんなにもいろんな形のサボテンがあるのかと驚きました。

名前がまたすごいのです。

「白雲鸞鳳玉(はくうんらんぽうぎょく)」「白刺竜女冠(しろとげりゅうじょかん)」「鬼面角(きめんかく)スピラリス」「吹雪柱綴化(ふぶきちゅうてっか)」などなど。

どんな形のサボテンなのか、気になりませんか?

著者がサボテンとのコラボをした意図はわかりませんが、サボテンの生き方は人間と似ているな、と思いました。

サボテンや多肉植物の場合、他の植物と違って一気に大きくならず、ちょびちょび生長する。

もこもこ伸びたり、真っ直ぐに伸びたり、休んだり・・・様々な生長を繰り返して、サボテンや多肉植物は、その個体だけの、唯一の形になっていく。

サボテンごとに特徴が違うので、自分にぴったりのサボテンをみつけてみたくなりました。

少しずつ繋がるそれぞれの物語

私はどちらかというと長編小説派なのですが、この作品のような”連作短編小説”もとてもすきです。

  • ひとつの物語が終わっても、また別の物語で再会できる
  • 前の主人公の後日談を、別の物語の中でさらっと知ることができる

こういったところが、連作短編ならではの良さですよね。

それぞれの物語の主人公たちが、直接的あるいは間接的に関わっていくので、最終的には個々の短編でありながらも、ひとつの物語を読んだ気持ちになりました。

  • 野球選手の妻になるために管理栄養士になった女の子の話「野球選手の妻になりたい」
  • いじめがきっかけで引きこもるようになってしまった、松田聖子に恋する兄の話「恋人は松田聖子」
  • 自分からは決して”さようなら”が言えない弟の話「さようならを言ったことがない」
  • 同性に対する恋心を描いた「ガールミーツガール」  etc..

これらの物語が、後半に進むにつれて、だんだんと繋がってゆきます。

「さようならが言えない弟の話」

生まれつき「別れ耐性」を持っていない入鹿(いるか)は、0歳のときから、誰とも別れようとしなかった。

「さようなら」を口にしたことも、手を振ったこともない。

さらに、入鹿は人だけではなく物に対しても「さようなら」ができない。

使い終わって毛が開ききった歯ブラシともお別れできず、子供の頃から使ってきた代々の歯ブラシを、ぎっしりと抽出の中に隠している。

寝る前に小説を読み切ってしまったときは、本を閉じるのが辛く、最終ページを開いたまま布団に載せて眠る。

しかし、さようなら以外のことは何でもできた入鹿。

成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。もちろん、女の子からもモテる。

しかし、女の子と付き合いが始まったら絶対に別れず、告白されると断ることもできない入鹿。

何人もガールフレンドがいるという状況になり、責められる入鹿だったが、それでも自分が間違っているとは思えない。

「別れるのが嫌だ」というのは、そんなにおかしいものだろうか。と疑問を持ち続けていた。

「世間に馴染めなくても、友人から嫌われることがあっても、できるだけ人とは別れずにやっていこう」と十八歳になった入鹿は、腹を決めた。

しかし、あることがきっかけで自室にこもるようになってしまった入鹿。

ある日、兄のくれたサボテンを見て、こう思う。

その真っ直ぐな根元と、先に広がったぶざまな赤い部分とを比べてみて、ああ、もう僕も、真っ直ぐには生きられない、と悟った。傷を抱えてこの先の人生を進むしかない。しかし、これからも絶対に「さようなら」は言えないと思ってしまうのだった」

少し切ない終わり方ですが、また別の物語で、入鹿とある女の子の後日談を知ることができ、安心しました。

どの物語もよかったですが、私はこの物語がいちばんすきです。

本の感想

著者の独特のペンネームから、小説の内容も奇抜なものを想像していましたが、予想とは全然違いました。

 

サボテンとのコラボという設定は独特ですが、人それぞれの恋愛の仕方を肯定してくれる、やさしい小説です。

 

恋愛小説ではありますが、おばあさんの初恋だったり、引きこもり青年の松田聖子さんへの恋心だったりと、いろんな恋愛の形を描いています。

 

典型的な恋愛小説が苦手な私でも、最後まですらすらと読むことができました。

 

何歳になったって、どんな人間だって、同性同士だって、人それぞれの恋愛をすればいいのだ。

 

そんなふうに思わせてくれる作品です。

 

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印象に残った言葉(名言)

「私の人生には、昼の輝きがなかった。生まれてから死ぬまで、ずっと夜だった」

 

「自分の人生を進めるために人と関わるのではない。何の意味もなく、人と関わるのだ」

 

「男のことは、ひとり占めできなくて、全く構わない。ただ、自分のこの胸の高鳴りが、できるだけ長く続くことを竜子は願っている。棺桶に入るときまで、自分の体が痺れていたら、どんなに良いだろうか」

 

「お互いが生きているだけで、いや、どちらかが死んだって、愛していける。高め合うためでなく、祈るために関係を築く」

 

「振られたって恋だ。想いを伝えられない片思いだって恋だろう。同性に恋する人もいる。ひとりではなく何人もの人に恋をする人だっている。言葉も体も交わさない恋もある。絶対的な恋なんてない。ひとりひとりの、個人的な恋しかないのだ」

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
キャラクター
(3.0)
個性
(4.0)
サボテン
(5.0)
総合評価
(4.0)

 

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