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【No.58】~奇妙な三角関係を描いた、すれちがう魂の物語〜 『落下する夕方』 江國 香織(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『落下する夕方』江國 香織(著)

三角関係の恋愛小説を江國さんの感性で描くと、こんなにも不思議な魅力にあふれるのだと感心した作品です。

 

読めばきっと、華子の魅力にとりつかれてしまいますよ。

 

 

本の概要(あらすじ)

「私ね、華子さんと住んでるの」

 

8年間同棲していた恋人・健吾が突然家を出た。

 

他に好きな女ができたのだ。

 

健吾と入れ替わりに家にやってきたのは、なんと健吾の新しい恋人・華子だった。

 

押し切られるようにして始まった、梨果と華子の奇妙な同居生活。

 

はじめは戸惑っていた梨果だったが、しだいに華子の不思議な魅力に取りつかれていきーー

 

奇妙な男女の三角関係を、独特の感性で描いた恋愛小説。

3つの特徴

ふたりの別れ

「引越そうと思う」

そんな言葉で告げられた、ふたりの別れ。

梨果は何度も健吾を引き留めましたが、それでも健吾は家を出てしまいました。

私は、健吾がでていったあとも泣き喚いたりしなかった。仕事も休まなかったし、お酒ものまなかった。やせも太りもしなかったし、友達に長電話をしたりもしなかった。怖かったのだ。そういうことをどれか一つでもしたら、別れが現実に定着してしまう。これからの人生を、ずっと健吾なしでやっていかなくてはならないなんて、私には到底信じられないことだった。

別れてからも3日おきにかかってくる、健吾からの電話。

友人からは、追いかけるか新しい恋をするかしなさいと言われますが、梨果はこのままでいいのだと言います。

「このままでいいの。まったく大丈夫」

欠けたところは欠けたままにしておきたかったし、そこは勿論健吾だけの場所だ。

梨果の健吾に対する気持ちは、愛情なのか?それとも・・・?

 

華子という女性

健吾と入れ替わるようにして家にやってきたのが、ふたりの別れの原因でもある”華子”。

「私たち3人にとって、完璧な解決策だと思ったんだけど」

華子には住むところができるし、梨果は家賃が払えるようになる(半分の8万を華子が出すという)、健吾は華子の居場所と梨果の家賃の心配がなくなる。

「どうして健吾と住まないの」と聞く梨果に「ここの方が快適だもの」とこともなげに言う華子。

そんなふうにして始まった、共同生活。意外なほど華子は同居人として優秀で、あたりまえのようにただそこにいます。

どちらでもおんなじみたい。

そう思って自分でぎょっとした。奇妙なことに、一緒に暮らす相手が健吾でも華子でも、私にはあまり違いがないようなのだ。

私もこの文章を読んで、ぎょっとしました。けれど、そう思わせるほどに華子は日常にしっくりと馴染んでいるのです。

ふたりの同居を知り「平気なのか?」と理解できない顔で梨果に聞く健吾。

「結構気があうよ、私、華子と」

すっかり華子の不思議な魅力に取りつかれてしまった梨果。

奇妙な三角関係のゆくえはーー?

華子のもちもの

少しの洋服と下着、靴2足、歯ブラシ、歯みがき、チューインガム、ラジオ1台、本1冊、毛布1枚、ヘチマコロン1壜、口紅1本。

 

辿り着いたところ

梨果と華子の共同生活がたんたんと続き、単調になってきたところで、物語が動きます。

「じゃあ、梨果さんも一緒に逃げる?」

華子のそのひと言で、ふたりは日常からの逃亡へ。

「逃げるのってものすごく苦痛ね」

そういう梨果に、華子はたのしそうに、うたうように言います。

「私はいつも逃げてばっかり」

「そういう人生なの、逃げまわって逃げまわって、でも結局逃げられない」

湘南の別荘で一晩を過ごしたふたり。先に家に戻った梨果は、華子の帰りを待ちますが・・・。

華子はなにから逃げているのか?謎に包まれた彼女の最後はーー?

”衝撃のラスト”とも言えるような結末を迎えますが、不思議と驚きや違和感はありませんでした。

「あぁ、そうなんだ」と心にストンと落ちるような感覚です。

 

本の感想

不思議な魅力に惹きつけられてしまう作品です。

 

嫉妬や執着、惰性などの人間のかっこ悪い部分を描きながらも、どこまでも透明できれい。

 

江國さんの描くどこか変わっている女性が好きなのですが、今回の華子の魅力は本当に捉えどころがありません。

 

なぜ健吾はそんなにも華子に惹かれたのか?なぜ梨果は華子を追い出さないのか?

 

最初はそんなふうに思っていましたが、気づいたら私もそこに華子がいるのが日常で、いないと物足りない。そんなふうに感じるようになっていました。

 

彼らと同じように、私も華子に狂わされてしまったひとりなのかもしれません。

 

梨果が15ヶ月もの時間をかけて、ゆっくりと失恋していく様子が、切なくて温かくて。

 

江國さんにしか描けない、しずかで冷静であかるくて残酷な、そんな恋愛小説です。

 

 

江國香織さんの他の作品

【No.8】~静かな狂気と、果てない旅の物語~ 『神様のボート』 江國 香織(著) 【No.42】~風変わりでいとおしい、ある家族の物語〜 『流しのしたの骨』 江國 香織(著) 【No.50】~少女と大人のあいだで揺れる女子高生の孤独と幸福を描いた物語〜 『いつか記憶からこぼれおちるとしても』 江國 香織(著) 【No.72】〜風変わりな一族を描いた、愛と秘密にあふれる物語〜 『抱擁、あるいはライスには塩を』江國 香織(著)

 

 

印象に残った言葉(名言)

「怖かったのだ。結婚は愛情の墓場だ、と思っていた。実際、私たちは最新の注意を払ってきた。一緒に住んではいても、それが結婚に似てしまわないように」

 

「わらうときはね、嬉しかったり可笑しかったりして、わらおうと思って、それでわらうのよ」

 

「好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの」

 

「おわっちゃうときに淋しくなるところが好きなの」

 

「一度外にでてしまったら、帰ることなんてできないのよ」

 

「私ね、空は好きよ。海よりずっといい」

 

 

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
雰囲気
(4.0)
不思議
(5.0)
恋愛
(4.0)
総合評価
(4.5)

 

 

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