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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『 TUGUMI 』吉本ばなな(著)
本の概要(あらすじ)
「私の心のかえるところは、あの頃つぐみのいた日々のうちだけに、ある」
病弱でわがままな美少女つぐみ。
彼女と少女時代をすごした海辺の町に、最後の帰省をした私。
ふたりは、絵に描いたような青い月ののぼりかけた浜辺で、ひとりの青年と出会う。
これが、ふたりの最後の夏を共にするもうひとりの仲間、恭一との出会いだったーー。
大人になっていく少女を描いた、儚くきらめく夏の物語。
第二回山本周五郎賞受賞作品。
3つの特徴
故郷と家族
東京の大学に進学した白河まりあが、故郷の町に最後の帰省をする、ひと夏の思い出を描いた物語。
語り手のまりあが少女時代をすごしたのは、海辺の町にある山本屋旅館。
まりあの母親の妹、政子おばさんの嫁ぎ先であるその旅館の離れに、母親とふたりで住んでいたまりあ。
父親は長く別居している妻との離婚を成立させるため奔走しながら、週末にはふたりに会うため旅館に訪れていました。
やがて離婚が成立し、三人は東京で暮らすことに。
見かけは多少複雑でも、愛し合う夫婦と平和なひとり娘という、あたたかい家族として描かれています。
あんまり妙な状況にいたので、かえって私たち3人は「典型的な幸福な家族」というシナリオの中の人々のように優しくなってしまった。誰ひとり、本当は心の底に眠るはずにどろどろとした感情を見せないように無意識に努力している。人生は演技だ、と私は思った。
つぐみの魅力
政子おばさんの娘、姉の陽子と妹のつぐみ。従姉妹である彼女たちと共に育ったまりあ。
姉の陽子ちゃんは、まりあ曰く<「やさしさ」が陽に透けて落とした花びらのシルエットのような人柄>。
そんな陽子ちゃんとは正反対の、<意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれでずる賢い>妹のつぐみ。
つぐみがそうなったのは、生まれた時から病弱で、医者から短命を宣言された彼女を家族が甘やかしてきたから。
性格は難ありですが、<まるで神様がこしらえた人形のような端正な外見>をしているつぐみ。
美しい見た目と中身とのギャップに驚かされますが、読み進めるにつれ、彼女の内面にこそ強烈な魅力を感じ始めます。
そんなつぐみのキャラクターが、この作品のいちばんの特徴。
ところどころに、つぐみの個性的な言動の数々が散りばめられています。
「何かを得る時は、何かを失うように決まってるだろ。海ぐらい何だってんだ。子供だなあ、お前も」
食うものが本当になくなった時、あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい。もちろん、あとでそっと泣いたり、みんなのためにありがとう、ごめんねと墓を作ってやったり、骨のひとかけらをペンダントにしてずっと持ってたり、そんな半端な奴のことじゃなくて、できることなら後悔も、良心の呵責もなく、本当に平然として『ポチはうまかった』と言って笑えるような奴になりたい。
つぐみの理解者であるまりあと、仏のように優しい陽子ちゃんが、彼女の魅力を存分に引き立てています。
恭一との出会い
淡い夜のはじまりに出会った、ひとりの青年・恭一。
すらりと細い体に、がっちりした肩や首。一見さわやかそうな青年に見えるが、彼のまなざしは妙に深く、何か重大なことを知っているような光があった。
そんな彼を<あいつ、ただ者じゃなかったな>とつぶやくつぐみ。
どこか似ている部分があるふたり。お互いに惹かれあい、付き合いはじめます。
今までは誰と付き合っていても、終わりが見えていて眠りそうに退屈だったというつぐみ。
「だけど、今度は参加してるって感じがしてる。恭一はちがうんだ。何べん会ってもあきないし、顔を見てると手に持ってるソフトクリームとかをぐりぐりってなすりつけてやりたくなるくらい、好きなんだ」
幸せなふたりを微笑ましく見守り、物語はラストへ・・・
と思いきや、つぐみはその後ある出来事をめぐって、とんでもない行動に出ます。
どうしてみんなつぐみの本性がわからないんだろう?わざとらしくしおれたつぐみを、恭一も陽子ちゃんも信じた。でも、つぐみが犬を殺されて黙っているわけがない。復讐だ。そのために出歩いているに決まっている。
体が弱いのに、たったひとりで復讐をやり遂げたつぐみ。無理をしたせいで、そのまま入院してしまいます。
生死をさまようつぐみから届いた、一通の手紙。
そこに書かれていたこととはーー?
「あたしは今回、やはりいちど死んだような気がするんだ。もしかしてあたしは、これから少しずつ変わってゆくのかもしれない」
本の感想
少女が大人になっていく季節の、きらめきや儚さをどこまでも真っ直ぐに描いた作品。
「吉本ばななさんといえば短編小説」という私のイメージを覆した長編小説です。
どこがどう好きなのかを言葉にするのは難しいですが、ふとしたときに読みたくなります。
物語全体に夜の海の静けさが漂っていて、きらきらと綺麗だけれど、時折切なさがこみあげてきます。
あのなんとも言えない夏の終わりの静けさと切なさ。それがこの小説を読むたびに思い出されます。
ふと頭に浮かんだ、なんでもないようなこと。日常の中でさらさらと流れていってしまうもの。
そういったものをきちんと描いてくれている吉本さんだからこそ、心にじんわりと沁みるものがあります。
つぐみの放つ強烈なエネルギー、さりげない日常の風景、爽やかな恋と、全てを包み込み優しい雰囲気。
以前紹介した『キッチン』も大好きですが、この作品もお気に入りの一冊です。
印象に残った言葉(名言)
「ひとりの人間はあらゆる段階の心を、あらゆる良きものや汚いものの混沌を抱えて、自分ひとりでその重みを支えて生きてゆくのだ」
「あたしは最後の一葉をいらいらしてむしりとっちまうような奴だけど、その美しさはおぼえてるよ」
「人は自分が出した分を返してくれなかったら必ずいつか去ってしまうものだ」
「あの目を見ていると、あの生き方を見ていると、何とはなしに厳粛な気分になっているんだ」
「私の本当の人生はこれからはじまる」
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