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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『薄闇シルエット』角田光代(著)
角田さんの小説は、現代に生きる女性の悩みを鋭い視点で切り取った作品が多いなと思いました。
主人公が抱える悩み、どれかひとつでも共感できる部分があるのではないでしょうか?
本の概要(あらすじ)
「私、結婚しない」
付き合っていた恋人に「結婚してやる」と得意げに言われ、「なんかつまんねぇ」としらけるハナ、37歳。
友人と共同経営している古着屋も、順調に行っているかと思いきや、思わぬ方向へ。
「結婚」「仕事」何に対しても受け身で、もっと楽しいことをしたいと思いつつも、そのなにかを見つけることができないでいるハナ。
結婚とは、幸せとは、自分らしさとはーー
悩める大人の女性に贈る、傑作長編小説。
3つの特徴
胸に刺さる言葉たち
主人公のハナが抱えている不安や焦りが、まだ20代の私にも共感できる部分もあって、胸に刺さります。
人生に勝ち負けはない、持っているも持っていないもない、人と比べる必要はない。
頭ではわかっているのに、不安や焦りはどうしてもきえない。
周囲の人たちがどんどん先へと進む中、自分だけ出遅れて動けずにいる。
「私だけだよ、何にも変わってないの。チーちゃん、私なんにも持ってないんだよ。みんなひとつずつ手に入れて、一歩ずつ先に歩いているのに、私だけいつまでも手ぶらで、じたばたしてるだけなんだよ」
はたして最後にハナは、何かをつかみとることができるのでしょうかーー?
母への反発
ハナの母親は、手作り狂だった。
家族の誕生日には、毎年手作りの生クリームと苺のケーキ。
通学バッグも、エプロンも、ブラウスやスカートも、何もかも手作りしないと気が済まないのだ。
そんな母親のことを、ハナは「つまんねぇ女」と哀れんでいた。
いい人をみつけて、結婚して、きちんとした家庭を作る。それこそが母の望んでいたことだった。
それに反発するかのように、ハナは37歳まで結婚もせず、猛反対された古着屋で働き続けているのだ。
しかし、母が倒れて実家に戻った際に、気がついた。
母は自分の生き方を娘に強要したかったのではなくて、自分で作り上げた城を否定されたくなかったに違いないということを。
結局人は、自分のいる場所を正しい場所だと思いたくて、それと同じことを他人に求めてしまうのかなと思いました。
「私、だれかがやめなさいとかやりなさいとか言ったから、というんじゃなくて、もっと純粋な気持ちでやりたいことをやってみたいな」
母が反対していたからこそ、古着屋の経営をしてきたハナでしたが、母の死をきっかけに、仕事や生き方に対しての心境も変化していきます。
主人公の独特の結婚観
主人公は、恋人からの「結婚してやる」という上から目線に反発して結論を保留にします。
お互い好きで、相性も悪くなく、家事もせず好きなことをして暮らしていいと言ってくれる恋人。
反対する理由がどこにあるのだ?と思いつつも、反発してしまう自分がいることに気付いてしまうハナ。
好きなことをしていて「いい」、おもしろいことをしていても「いい」と、なんで許可されなきゃならないのか。許可されなくたって私は私のしたいようにしかできないのだ。
こんなハナの気持ちに共感してしまう女性もいるのではないでしょうか。
しかし、親友の結婚を機に、ハナの心境も変化していきます。
結婚したいわけでもなかったし、したくないわけでもなかった。私はただ、変わってしまう、ということがこわかっただけなのだ。
私はどこへもいきたくなかったんだな。そればかりではない、だれにもどこへもいってほしくなかったんだな。
そして、親友の披露宴で、独自の結婚観を滔々と話します。
「結婚なんて、きっとすごくつまんないと思う。こんなことを言うと、未婚者のひがみだとかすぐ言う人がいるけど、そうじゃなくて、本当につまんないんだと思う。結婚がすばらしいというのは貧しさが見せた幻想です。でも、そのつまんないことを、彼女はあえてやろうとしているんだと思います。今持っているゆたかさを放り投げてでも、つまらないことをしようと決めたんだと思うんです。そんな彼女はかっこいいと思う。うらやましいと思う。私は何ひとつ決められないままここにいるから」
もちろん、披露宴でのこの発言は空気を読めないどころではないですし、会場は静まりかえってしまいますが、私は読んでいてスカッとしました。
親友も、笑いをこらえながらこっそりピースサインをハナにおくります。
こういう考えがあったっていいじゃないか。そう思えたシーンです。
本の感想
著者は女性の葛藤を描くのがとても上手だと思いました。
女性が感じている息苦しさだったり、価値観の押しつけだったり。そういうものがとてもリアルに描かれています。
アラフォー世代の方はもちろん、大人の女性は共感できる部分が多いのではないでしょうか。
(特に、仕事や恋愛や結婚で悩んでいる方)
自分がハナと同じ歳になった時に同じ悩みを抱えていたら・・・と少し不安になりました。
そのときはまた、この作品を読んでみようと思います。
なんにもつかみとっていない、なんにも持っていないーーそれはつまり、これからなんでもつかめるということだ。間違えたら手放して、また何かつかんで、それをくりかえして、私はこれを持っていると言えるものが、たったひとつでも見つかればいいじゃないか。
印象に残った言葉(名言)
「馬鹿だった。好きということと死ぬということと結婚ということと家族ということとが、全部いっしょのことだと疑いなく信じていた」
「な、気づいた?あんたやおれの話って、したくないってことでしか構成されてないんだよ。したくないことを数え上げることで、十年前は前に進むことができたけど、今はもうできないとおれ思うんだ。したくないって言い続けてたら、そこにいるだけ。その場で駄々こね続けるだけ」
「何歳のだれと結婚したって、やはりそれは、自分ひとりだけのことなのではないか。ひとりの決意、ひとりの作業、ひとりの責任」
「いくつになったってその人はその人になっていくしかないんだから、他人と比べるだけ無駄だよっ。きょろきょろ人のこと見てるあいだに、あっという間におばあちゃんだよっ」
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