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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『きっと君は泣く』山本文緒(著)
重たい内容なので気軽には読めませんが、一度読むとなかなか忘れられない作品です。
本の概要(あらすじ)
「私の能力は、きれいだということだけなのだ」
自分の容姿を才能だと信じて生きてきた、桐島椿 23歳。
思い通りの人生を生きてきた・・・はずだった。
憧れの祖母の入院、父の会社の倒産、仕事先の人間関係。
一度狂い始めた歯車は、なかなか噛み合わずーー
美人だって、泣きをみる。
ほんとうの美しさとは?しあわせとは?
3つの特徴
祖母への憧れ
父も母も嫌っている椿ですが、唯一慕っているのが祖母です。
椿が祖母に初めて会ったのは、15歳のとき。美しい祖母に、椿は目を奪われます。
顔には皺があり、首筋には弛みが見える。けれど祖母の美しさはそんなことで損なわれる種類のものではなかった。ちょっとでも触ったらすぱっと手が切れてしまいそうだ。あれは刃物の美しさだ。
祖母に「あたしの若いころにそっくりだ」と言われ、自分も祖母のように美しくなれるのだと思った椿。
美人だからこそ、若さを失うことに対しての抵抗があるのかと思いきや、祖母の美しさを知ってしまった椿にはもう、怖いものなんてありません。
私は年をとるのが恐くない。私は自分の傲慢さが恐くない。私には祖母がいる。肌の張りが失われてくるにつれて、私はあの威厳と張りつめた美をてにいれることができるのだ。私は決して、死ぬまでただのババアなんかにはならないのだ。
同級生との再会
異性に好かれ、同性に嫌われる女性。その典型が椿です。
子どもの頃は、同性から嫌われないようにと気を使っていた椿でしたが、もうそんなことはしません。
美人を鼻にかけていると言われても、威張ったババアと言われても、私は同性に媚びたりするのはやめたのだ。
もしかしたら椿を見ていて嫌な女と感じる人もいるかもしれませんが、私は椿の潔さをむしろ清々しく感じました。(実際にいたら、内心穏やかではないかもしれませんが)
そんな椿は、祖母が入院している病院で、元同級生で看護師をしている魚住と再会します。
大魔神というあだ名で呼ばれていた、椿とは正反対の容姿をもつ魚住。
「私はあなたが嫌いだわ。あんたのいうことが気にくわないわ。大魔神じゃなくて人間なんだから、もう少しきれいになって人から好かれようと思いなさいよ」
「私だってあなたが大嫌いよ。昔からあなたはいやな女だったわ。みんなもあなたを嫌ってた。あなたは友達ひとりいない嫌われ者だった」
ふたりの本音の言い合いは凄まじいですが、だんだんと「あれ?ほんとうは仲良いのかな?」と思える空気感になっていきます。
椿を嫌う女性たちは、みんな陰で悪口を言い嫌がらせをしますが、魚住さんだけは面と向かって嫌いだと言ってくれます。
美しさとは
この物語の大きなテーマでもある「美しさ」
椿を見ていると、何が本当の美しさなのか考えざるをえなくなります。
椿の美しさは、外見の美しさ。それが全てだと椿は思っています。
私は自分の容姿を、才能だと思っている。能力だと信じている。
だからこそ、自分よりきれいだとは思えない子が、若いからといってチヤホヤされているのは我慢ならないのです。
そんな椿に、祖母は自分なりの”美人論”を何度も言い聞かせます。
「いいかい、椿。美人なんていうのは、雰囲気なんだよ。ハッタリなんだよ。いくら形が整ってたって貧乏臭かったり卑しかったりしたら何にもならないんだ。あんたのその僻み根性はどう見ても卑しいよ。心の卑しさはちゃんと顔に現れるんだ」
「外見よりも中身を磨け」なんて言葉は全く心に響きませんが、椿の祖母が言うことはすっと心に入ってきました。
外見の美しさだけでは、幸せになることはできないのかもしれない。
逆に、外見の美しさがなくても、幸せに生きることができるのかもしれない。
自分が思う「美しさ」ってなんだろう?そんなことを考えてしまう小説でした。
本の感想
山本さんの作品は、人間のどろどろとした部分を描いた、生々しい作品が多いなぁと改めて思いました。
今回の内容は特に、華やかに生きてきた主人公がだんだんと墜ちていく様子が痛々しく、心が休まる場面がありませんでした。
絶望の中にどれだけ光を見出せるかで、読了感は変わる作品だと思います。
私は二度目だったので淡々と読めましたが、初めて読んだときは終始ハラハラしながら読みました。
ハッピーエンドとはとても言えないかもしれませんが、私はほんの少し椿の成長を感じられたラストかなと感じました。
山本文緒さんの他の作品
【No.19】母娘の闇と隠された秘密とは?『群青の夜の羽毛布』 山本文緒(著) 【No.27】純愛?狂気?他人を愛しすぎてしまう女性の衝撃の過去『恋愛中毒』山本文緒(著)印象に残った言葉(名言)
「人に好かれる人間というのは、どこかに隙を持っている。その隙を無意識に、あるいは故意に人前に晒すことができるのが好かれる人間だと思う」
「遊び人と告げ口女、どちらがマシかと聞かれたら、そりゃもう答えは決まっていた」
「こんな顔に生まれてきて損したってずっと思ってたけど、人間損得だけで生きてるわけじゃないじゃない。そりゃ、あんたみたいな奴を見ると腹が立つけどさ。本当に損得抜きで、誰にでも親切な人っているのよ」
「妬みや嫉みや優越感を超えて、誰にでも優しく当たれるなんて人間ではなく本物の天使様だ」
この本の総評
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