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【No.59】〜不器用で真っ直ぐな女の子の、しあわせの景色を切り取った物語〜 『窓の向こうのガーシュウィン』 宮下 奈都(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『窓の向こうのガーシュウィン』宮下奈都(著)

宮下さんの作品のなかでも、とりわけ優しくて心温まる一冊です。

挿絵もとても優しくて素敵で、物語の雰囲気にぴったりです。
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本の概要(あらすじ)

「あなたを見ていると、あんころもちのおもちを思い出します」

 

自分には何かが足りないと思いながら、19年間を過ごしてきた私。

 

ヘルパーとして働きはじめた私は、横江先生の家で、「額装家」の男性と出会う。

 

「あなたの目や耳を貸してほしい」彼にそう言われ、額装の仕事を手伝うようになりーー。

 

不器用で真っ直ぐな女の子が、人の温かさに触れて、ゆっくりと成長していく物語。

3つの特徴

不器用で素直な主人公

私は成長してもいつもどこか足りなかった。足りない、足りない、といろんな人にいわれて育った。細くて、青白くて、かさかさしていて、でも、どこに何が足りないのかもわからなかった。たいていは何か失敗をしてから、どうも何かが足りなかったようだと気づくのだ。

自分には何かが足りないのだと思いながら、19年間生きてきた主人公。

父はふらっと出て行ったきり半年以上も帰ってこなかったり、母はだらしなくて家の中はいつもぐちゃぐちゃだったり。

そんな環境で生きてきた主人公は、不器用だけれどとても純粋です。

しあわせに育った自覚はない。でも、いわれてみればしあわせだったような気もする。だってふしあわせだと思ったことはないから。お父さんは帰ってこないけど。お母さんはだらしないところもある人だけれど。ふしあわせではなかった。

人の話を聞くときに雑音が混じってしまい、うまく会話することができない彼女は、人と深く関わることをあきらめ、ひっそりと息をひそめて暮らしてきました。

額装の仕事

就職した会社がすぐに倒産してしまい、なんとかヘルパー3級を取得した主人公は、横江先生の家でヘルパーとして働き始めます。

他の派遣先では緊張してうまく働けない主人公ですが、なぜか横江先生の家では安心して働くことができます。

なぜか横江先生のところでは耳が澄んだ。横江先生の言葉は、語尾が震えることも消えることも変身することもなかった。私は安心して働くことができた。

そんな横江先生の家で出会ったのが、ひとりの男性と額装。

「俺に何ができるかっていうと、はっとさせることだけなんじゃないかと思う。どんなところを歩いて何を見てきた人でも、額を見てはっとするように。そこからはそれぞれが勝手に何かを引っ張り出してくれるだろうから」

そんなふうに額装の仕事について話す男性。

「しあわせな景色を切り取る」額装の仕事に、心を奪われる主人公。

「音楽が聞こえました。景色も見えました。びっくりした。窓から向こうを覗けたような気がしたんです」

主人公の独特の感性に興味を持ったのか、男性は額装の仕事を手伝ってほしいと頼みます。

横江先生のヘルパーとして働きつつ、額装の仕事も手伝い始める主人公。

横江先生の家で、かつての同級生・隼(横江先生の孫、額装家の男性の息子)とも再会します。

人となじめなかった主人公が、横江先生・額装家の男性・隼と関わりながら、ゆっくり心を開いていく様子が、丁寧に描かれていました。

自由な感性

多くの人が「ああ、そうなんだ」と流してしまうことを、主人公は適当に流すことができません。

いろんなことを誰かが決めている。算数の式では、足し算と引き算よりも掛け算と割り算を先にやる。加減乗除の法則を知ったときのあの驚き。英語で、haveは「持っている」なのにtoをつけると「しなければならない」に変わると教えられたときもうろたえた。世の中は後出しジャンケンに満ちている。

こういうところに彼女の不器用さを感じますが(でもとても共感)、その分とても素直で自由な感性を持っています。

悲しい歌のなかに、しあわせの景色をみることができる。夏の写真に秋を感じることができるし、自分の物差しで物事の基準を測らず、そのまま受け止めることができる。

自分に自信がなく頼りない印象だった主人公が、横江先生たちと出会い、額装の仕事を通してゆっくり成長していきます。

まず、何も持たずに絵の中に入って、そこで耳を澄まそう。いくつも重なって響いてくる音の中からいちばん確かに聞こえる声を拾おう。そこで聞いたものを額装するのが、私の仕事だ。

本の感想

宮下さんの描く主人公は、どこか不器用で素直で一生懸命。

 

それが特に強く感じられるのが、この物語の主人公・佐古さんです。

 

たまにズレたことを言う彼女ですが、実はとても強くて自由な感性を持っていることがわかります。

 

多くの人があたりまえだと流すことを、彼女はあたりまえにはしない。

 

自分の目で見えること、耳で聞いたこと、心で感じたことときちんと向き合っています。

 

彼女の目線でみる物語の世界は、そのせいかどこかふんわりとしていて、優しく温かです。

 

ぜひ、エラフィッツジェラルド の「サマータイム」を聴きながら読んでみてください。

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印象に残った言葉(名言)

「あんたがいてれくれてよかった」

 

「話したり、ご飯を一緒に食べたりすることも、「今」を大事にすることだと思う。でも、ここには額がある。額装することで私たちははっきりと「今」を捕まえることができるのではないか」

 

「私はーー。私は、今このときを額装してしまいたい。いつでも取り出して眺められるように。ここだけを額縁で切り取ってしまいたい」

 

「謝ることができるっていうのはーーしあわせなことなんだね」

宮下奈都さんの他の作品

【No.10】~本屋大賞受賞の感動作~ 『羊と鋼の森』 宮下 奈都(著) 【No.37】~なりたい自分をみつけたくなる、心に響く物語~ 『太陽のパスタ、豆のスープ 』宮下 奈都(著) 【No.52】~それぞれの特別な「旅」の瞬間を描いた物語〜 『遠くの声に耳を澄ませて』 宮下 奈都(著) 【No.69】〜『羊と鋼の森』の著者、宮下奈都さんの幻のデビュー作〜 『静かな雨』宮下 奈都(著)

 

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
雰囲気
(5.0)
風景
(4.0)
温かさ
(4.0)
総合評価
(4.5)
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