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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『約束』石田衣良(著)
石田衣良さんの短編小説は初めて読みましたが、ひとつひとつの物語を長編にしても十分に読み応えのありそうな、そんな密度の濃い内容でした。
本の概要(あらすじ)
「だって約束したのだ。最後の一滴がかれるまでいっしょに生きていくと」
目の前で親友を亡くした少年、リストラに晒されながらも息子のために必死に働く父親、不登校の男の子と廃品回収のおじいさん、息子の病気と闘う家族・・・
あまりに残酷で理不尽な世界で立ち止まってしまっても、そこからまた一歩ずつ歩き出す人々の物語。
この作品を通して、著者が伝えたかったこととはーー?
3つの特徴
7つの物語に共通すること
『約束』『青いエグジット』『天国のベル』『冬のライダー』『夕日へ続く道』『ひとり桜』『ハートストーン』
どの物語も、大切な人を亡くした人たちが、再び立ち上がるまでの過程が描かれています。
どれもさらっとした文章なので読みやすく、読後はあたたかい気持ちになれます。
わたしが一番印象に残ったのは『約束』でした。
幼なじみの親友の命が、突然目の前で奪われた。
親友ではなく自分が死ねばよかったのだと、そう思い続ける少年。
事件をきっかけに、少年の心はだんだんと壊れていった。
「もう終わりにしたほうがいいんだ」
そう言って嵐の中家を出た少年を待っていたのは・・・?
読めばきっと、心に残る物語と出会えるはずです。
素直に泣ける優しい物語
悲惨な事件、子どものひきこもり、不登校、病気・・・
この作品で起こることは、どれも実際に現実で起こりうる内容ばかりです。
だからこそ、残酷な部分をできる限り取り除いて、深い絶望の中でも希望をみつけられるような物語になっているのだと思います。
リアリティを追求するのではなく「こうなってくれたらいいな」という著者の願いをそのまま形にしたような、そんな印象を受けました。
今まで読んだ著者の作品の中で、いちばん優しくて涙が出る作品です。
この作品に込められた著者の想い
著者がこの短編の依頼を受けたときに、真っ先によみがえってきたのは、「池田小学校事件」だったそうです。
2001年6月8日に起きた悲惨な事件。
当時はまだ子どもで、詳しい事件内容について知らなかったことに気付き、改めて事件の概要を調べました。
8人もの児童の命が奪われ、15人もの負傷者をだし、たくさんの人たちの心に深い傷を残したこの事件。
亡くなった子どもたちが生きていたら、今の自分と同じくらいの年齢になっていたのだと思うと、言葉になりません。
石田衣良さんは、あとがきでこう綴っています。
理不尽な犯罪の被害者が、苦しみから立ち上がり、人生に帰ってくる。その過程をていねいに、しっかり書こう。そうすれば、あの悲惨なだけの事件から、なにごとかを救いだすことができるかもしれない。
ひとりでも多くの人に、著者の想いが届いていればいいなと思いました。
本の感想
著者の長編小説に比べると、インパクトには欠ける気がしますが、その分余計な描写が入らないので感情移入しやすいのかなと思いました。
どの物語も暗闇に光が差すような終わり方なので、きれいに書きすぎていると思う人もいるかもしれません。
たしかに残酷な部分を容赦なく描いて、涙を誘う小説はたくさんありますが、この作品は違うと思いました。
理不尽な出来事や悲しい部分は最小限に。焦点をあてているのは、そこから立ち上がって前に踏み出すまでの過程。
どの物語でも、そこがていねいに描かれています。
だからこそ、素直に心にしみて、自然と涙がでるような物語になっているのだと思います。
誰かの心の痛みをそっと和らげてくれるような、そんな優しい一冊でした。
印象に残った言葉(名言)
「おじさん、おばさん、ごめんなさい。ぼくが生きてて、ごめんなさい。」
「どんなものでもしょせん金儲けにすぎない。そういう清人は正しいが、同時に誰ひとり金のためだけに働く人間はいない。こちらもまた正しい。正しいことがいくつもあり、それがときにぶつかりながら、世のなかがまわっていく。」
「毎日すこしずつ負けておく。そうしておくと、最悪の事態は避けられるもんだ」
「美しいものがすべて、記録されて、印刷されて、世の名に広くでまわるなんて、つまらないじゃないですか」
「涙をつくるのは心なのだとわかった。涙はどこかのタンクにためられているものではないのだ。あとからあとからにじみだして、頬をつたっていく。これほどたくさんの涙が人の器官にためておけるはずがない」
この本の総評
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