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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『さようなら、私』小川糸(著)
本の概要(あらすじ)
「もしよかったら、俺の育ての親に、会いに来ない?」
中学時代仲の良かった同級生が自殺をした。
地元に帰郷した私は、初恋の相手<ナルヤ>と七年ぶりに再会をする。
風貌は変わっているものの、昔と変わらない笑顔で笑うナルヤを見て、懐かしい気持ちになる私。
不倫の恋を経験し、夢を諦め、仕事を辞めてしまっていた私は、ナルヤに誘われモンゴルに行く決意をする。
狭い世界を飛び出して、広い空を見上げて気づいた、大切なこととはーー?
3つの特徴
彼女たちが抱えるもの
この小説には、3つの物語が収録されています。
- 恐竜の足跡を追いかけて
- サークル オブ ライフ
- おっぱいの森
どの物語も、主人公は心に傷を抱えている女性です。
恋も仕事も上手くいかなかった女性、母との確執やトラウマを抱え続けてきた女性、最愛の息子を亡くしてしまった女性・・・
彼女たちが新しい世界に飛び込み、自分と向き合い、新しい一歩を踏み出していく様子が丁寧に描かれています。
広い世界
『恐竜の足跡を追いかけて』では、主人公・美咲がナルヤの故郷モンゴルへ旅に出ます。
モンゴルの人たちの日常は、美咲にとっての非日常。便利で快適な日本とは比較にならないほどの不便さに、驚きます。
不満や文句ばかりを口にする美咲に少々うんざりしますが、もし自分が彼女だったとしても、同じようなことを感じたと思います。
私たちが便利だと思っている物が、遊牧民たちには邪魔な物でしかないこと。
スイッチひとつで快適な生活を送っている私たちは、先へ進んでいる気になっているだけで、実は原始的な暮らしをしている人たちの方が、ずっと頭を使って生きていること。
自分のいる世界が当たりまえだと思っているけれど、実はそうではないこと。
美咲を通して、私も狭い世界に捉われて生きているのだなと、改めて実感しました。
ちょっとしたきっかけ
『サークル オブ ライフ』では、死んだ母が残した旅行鞄とともに、生まれ故郷であるカナダに行く主人公・楓の物語です。
ずっと母を拒絶して生きてきた楓。
楓の抱える母への憎しみやトラウマは、一生引きずってもおかしくないと思えるほど、重たいものです。
彼女には年下の恋人がいますが、複雑な環境で育ち、トラウマを抱える彼女は、先へ進むことに不安を感じています。
母を受け入れることも、自分が誰かと結婚して母親になることも、あり得ないと思って生きてきた楓。
そんな楓に起きた、カナダでの奇跡。
人生は、ちょっとしたきっかけで、正反対の方向へ転がることもある。
現実は、この物語のようにはいかないかもしれません。
でも、もしかしたら自分が抱えているものも、こんなふうにちょっとしたきっかけで大きく方向を変えることがあるかもしれない。
そう思えた物語でした。
本の感想
『さようなら、私』というタイトルに込められた想いが、読み終わった後にひしひしと伝わってきました。
これまでの自分と『さようなら』をすると同時に、新しい自分に『こんにちは』と出会える。そんな小説です。
私はこの作品を読んで、視野の狭さや自分がいる場所が当たりまえという思い込みに気づかされ、豊かさの本当の意味を考えさせられました。
重たい内容ではありますが、どの物語も明るい方向へ心を向けることができる終わり方なので、読後は少し明るい気持ちになれます。
「自分に行き詰まったら、もっと広い世界に飛び出して、自分よりも上を見る」
それは別にモンゴルやカナダなどの、海外でなくてもよいと思います。
日常からほんの少し離れてみたり、いろんな人に会って話をしたり。些細なきっかけで変わることもあるかもしれない。そう思えたことが、私にとっては大切なことでした。
狭い世界に捉われて思い悩んでしまっている人に、読んでほしい一冊です。
小川糸さんの他の作品
【No.22】~小さな食堂が紡ぐ、心温まる物語~ 『食堂かたつむり』 小川 糸(著) 【No.53】~”伝えたい想い”を手紙にして届ける代書屋の物語〜 『ツバキ文具店』 小川 糸(著)印象に残った言葉(名言)
「私はずいぶんと多くの無駄な物を所有している。自分で自分を重たくして、遠くへ羽ばたこうとするのを拒んでいる」
「親に恵まれた人達は、私のような親に恵まれなかった人間の苦しみや葛藤、悲しみを、心から感じることはない。哀しいけれど、そうなのだ」
「先に死んじゃうって、ずるいよね。残された人達ばっかり、いつまでも罪を背負わなくちゃいけないんだから」
「自分の目で確かめなくちゃわからないことが、世界にはまだまだいっぱいあるんだ」
「そんなに簡単に、謝らないの。笑いたくない時に、無理に笑うのもおやめなさい」
「ここは決して、悲しみの背比べをする場所ではないのよ。ここはね、人生の疲れを癒して生まれ変わる、そういう場所なの」
この本の総評
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