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疲れ切った心と体を優しくほぐしてくれる大人気グルメ小説『キッチン常夜灯』長月天音(著)

こんにちは、ぽっぽです。

239冊目はこちら↓

『キッチン常夜灯』長月天音(著)

都心の片隅に佇む小さなビストロを舞台に描かれた、本格グルメ小説。

現在シリーズ三作目まで出版されていますが、本書はその一作目です。

おいしい料理と温かい物語に癒されたい方はぜひ読んでみてください。

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本の概要(あらすじ)

「いつでもここに来るといい。ここはそういう場所なんです」

街の路地裏にひっそりと佇む「キッチン常夜灯」。

午後9時から朝7時まで開いているこの店は、チェーン系レストラン店長の南雲みもざにとって、心を回復する大切な場所だ。

職場の人間関係に悩んだときも、不安で眠れない夜も、くたくたに疲れ切った夜も。

真夜中に食べるおいしい料理は、こわばった心と体をほぐし、明日を生きるための元気をくれる。

眠れぬ夜のじゃがいもグラタン、冷えた心を温める栗のポタージュ、思い出のクリームカラメル、早朝のお味噌汁……

ここはいつでも、優しい笑顔と温かな料理で私を待っていてくれているのだーー。

この本を推したい人

本書はこんな人たちに推したい本です↓

  • グルメ小説が好きな方
  • お仕事小説に勇気をもらいたい方
  • 優しい物語に癒されたい方

本の感想

キッチン常夜灯シリーズ

本書は『キッチン常夜灯』シリーズ一作目。

この後は二作目の『真夜中のクロックムッシュ』、そして三作目の『ほろ酔いのタルトタタン』まで物語は続いていきます。

表紙を見ただけではどれが最初なのかわかりづらいので、二作目から読み始めてしまったという人も多いみたいですね。

シリーズものですが作品ごとに主人公は交代するので、順番が逆になってしまってもきっと楽しめると思います。

こちらはタイトルからも分かるとおり、とある小さなビストロを舞台にした物語。

章ごとに主人公が変わる連作短編形式を想像していましたが、本書は固定の主人公で描かれた長編小説です。

最後まで主人公のみもざ視点で物語が進むので、店長として様々な問題を抱える彼女が、少しずつ成長していく姿に勇気をもらえます。

リアルなお仕事小説

本書はグルメ小説ですが、実はお仕事小説としての側面も強いです。

店長であるみもざが抱える悩みは、とてもリアル。特に飲食店で働く方は共感の嵐ではないでしょうか。

私自身チェーン系の飲食店でアルバイトをした経験があるのですが、その時の店長もみもざより少し年上くらいの女性で。

本社からの無理難題や、ベテランアルバイトの扱い方、慢性的な人手不足、困ったお客さん。

絶対に飲食店の社員にはならないでおこうと心に決めるくらいには、傍から見ていても大変そうでした。

気楽な学生アルバイトだった私には想像できないほどの悩みがあったのだろうなと、今となっては思います。

常に満身創痍のみもざを見ていたら、その店長がたまにバックヤードで泣いていた姿を、なんだか思い出してしまいました。

店長という名の鎧をまといながら、毎日くたくたになるまで働くみもざの姿は見ているこちらが心配になるほど。

(一円ハゲ事件のときには思わず「いいからもう休んで……」と言いたくなりました)

みもざのように頑張りすぎている人は、現実世界にもたくさんいると思います。

日々を乗り切るのに必死すぎると、意外と自分では心と体が悲鳴を上げていることに気づけないんですよね。

本書は頑張る人たちを描くと同時に、“自分を大切にすることも忘れないで”というメッセージも込められている作品です。

小さなビストロの本格フレンチ

そんなふうに日々必死に生きる人たちを温かく迎えてくれるのが、キッチン常夜灯。

キッチンといっても提供されるのは安くておいしい家庭料理ではなく、現地で修行を積んだシェフが作るフランス料理。

小さなビストロながらも登場する料理はどれも本格的で、料理の描写も丁寧に描かれています。

牛ホホ肉の赤ワイン煮、白ワインとシャルキュトリー、野菜たっぷりのガルビュール、子羊フィレ肉とフォアグラのパイ包み焼き。

それなりのお値段がするのだろうなと想像できる、高級感のある本格フレンチ。

かと思えば、早朝から働く人のために、朝はおにぎりとお味噌汁を提供したりもしていて。

シェフが真心込めて丁寧に作る料理は、本当にどれもおいしそうなんですよね。

(「!」を多用したオーバーなリアクションはちょっと気になりましたが)

おいしい料理に感動し、温かな接客に癒され、気づけばすっかり常連客の仲間入りを果たしていたみもざ。

キッチン常夜灯に通うことで心と体を癒しながら、店長として自身が目指すべき方向を少しずつ見つけていきます。

心の交流

キッチン常夜灯は、居心地の良い雰囲気やおいしい料理だけでなく、心の交流も魅力のひとつ。

素敵だなと思う反面、自分のことはあまり話したくない私からしてみると、この距離感はちょっとつらいかも。

なんて思いながら読んでいましたが、ここでしか会わない人たちだからこそ話しやすいこともあるのかもしれませんね。

温かい接客に心がほぐれ、おいしい料理に口が滑らかになり、自然と本音がこぼれでてしまうのかも。

普段は隙のないメイクや頑丈な鎧をまとっている大人たちも、キッチン常夜灯を訪れると戦闘モードを解除して、素の自分に戻れるのかもしれません。

でもやっぱり私は、自分の個人的なことを他の常連客に話されたり、他人のプライベートな部分に踏み込むのにはちょっと抵抗が。

私はカウンターの端っこにひっそりと座って、みんなの会話をBGMに温かい料理でお腹を満たそうと思います。

どんなときでも「ここに来れば大丈夫」と思えるような心の安息地。

みもざにとってキッチン常夜灯がそうであるように、誰にでもそういう場所が必要なのかもしれないと感じた一冊でした。

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印象に残った言葉

「ふと思う。「店長」という役職はまるで鎧だ」

 

「昔から私は「真面目」だと言われてきたけれど、「店長」という鎧は、真面目な私にとっては本当に呪いでしかなかった。店では分不相応な責任感を与え、店を出ても緩やかに私を締めつづけて、少しの弱音も吐かせてくれないのだ」

 

「こういう時はね、美味しいものをたくさん食べて、お腹いっぱいにするのがいいのよ。美味しいってことだけで、頭の中をいっぱいにするの」

 

「相手が誰であれ、ただ、大切な人を思って作る料理。それが自分だなんて、ちょっと嬉しいじゃない?」

 

「やきもきするのが店長で、そのやきもきを減らすには自分が動かなければならないと思っていた。でも、人を動かし、自分の分身を作ることが本当の役割ではないのだろうか」

 

「一人じゃないって、何にも代えがたいことなんです。お店が忙しくて私になど構ってくれなくてもいい。ただ、少し気にかけてくれる人がいるだけで救われるんです。人の気配に、温かいお料理の湯気に、暗くて静かな夜をやり過ごす場所があることにどれだけ私が救われたか」

 

「焦げたお肉をお子さんに出せますか?生焼けのお肉をお母様やお父様に食べさせられますか?同じなんです。お客さんだって誰かの大切な方なんです」

 

「忙しい日々こそ、時に丁寧に自分と向き合う時間が必要かもしれません。自分を大切にすることも忘れてはいけないんです」

 

「最初は自分のため。でも、その次は誰かのために作ってみるといいですよ。大切な人を想いながら作る料理は、さらに心を穏やかに満たしてくれます」

 

「進み続ける限り、大なり小なり問題はきっと現れる。でも、その都度自分を労っていくしかない。この体で、最後まで走り抜けなくてはいけないのだから」

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