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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『うつくしい人』西加奈子(著)
これまで『さくら』『きいろいゾウ』『漁港の肉子ちゃん』などの作品を読んできましたが、本書は他の作品とは少し雰囲気の異なる物語でした。
独特のテンポ感は封印され、終始たんたんとしていて静かな文章。
生きづらさを感じる主人公が、旅先での出会いを通して、心の呪縛を解き放つという物語です。
主人公に共感できるかどうかで感じ方は変わるかもしれませんが、私は西さんの小説の中でも特に好きな一冊。
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本の概要(あらすじ)
「私は誰かの美しい人だ。私が誰かを、美しいと思っている限り」
常に周囲の目を気にして、息苦しさを感じて生きてきた百合。
些細なミスをきっかけに会社を辞めてしまい、家に閉じこもる日々。
しかし、外に出なければと言う危機感から、離島のリゾートホテルに旅立った。
そこで出会ったのは、冴えないバーテンの坂崎と、ドイツ人のマティアス。
ふたりとの出会いを通して、がんじがらめになっていた百合の心は、ゆっくり解けていくーー。
3つの特徴
自意識と自己嫌悪
他人の目を気にしてびくびくと生きている、主人公の蒔田百合。
「他人にどう思われているか」が行動指針で、自分の気持ちはそっちのけ。
恋人すらも自分が好きかどうかではなく、「友人から認められる男」であるかどうかで決めてきた。
そんな彼女に共感できるかどうかは人それぞれだと思いますが、私は自分自身を見ているかのような気持ちで百合に自己投影をしてしまいました。
物事を判断する基準は、他人にどう思われるかどうか。常に人の顔色をうかがって、ひとりであれこれ思い悩む。
そうやって生きていくうちに、自分がほんとうに好きなものやしたいことさえもわからなくなってしまう。
些細な失敗で会社を辞めてしまった百合は、発作的に瀬戸内海のリゾートホテルへ旅立ちます。
美しい風景の描写とは裏腹に、ザラザラとした感覚が残る百合のリアルな心理描写。
それがあるふたりとの出会いによって、少しずつ、少しずつ、滑らかになっていきます。
ふたりとの出会い
ホテルのバーテン・坂崎と、ドイツ人の観光客・マティアス。
百合が旅先で出会った、風変わりなふたりの男。
さえなくて、頼りなくて、ノーデリカシーな坂崎とマティアス。
彼らは百合に特別何かをしてくれるわけではありません。むしろ百合の方が彼らに対して、呆れたりお説教をしたり。
けれど、彼らの存在は確実に百合を明るい方へと導いていき、心をほぐしてくれます。
前半は鬱々としていて切羽詰まった様子の百合が、ふたりと関わっていくうちに、徐々にラクになっていく。
その過程と3人の程よい距離感がとてもよかったです。
心の呪縛
物語が進んでいくにつれ、徐々に百合の過去が彼女の回想とともに紐解かれていきます。
彼女の心を縛っているのは、「姉」の存在。美しく聡明な、引きこもりの姉。
百合は社会からつまはじきにされてしまった姉を反面教師として、自分の気持ちを封印し、ひたすら周囲の空気を読んで生きてきました。
自分はどう見られているのか、どんな存在であるのか、こう行動したらどうなるか、そんなことばかり考えて、生きてきた。
姉は愛すべき対象ではなく、自分がうまく世の中を渡っていくための観察対象。彼女の美しさは、いつも私に「自分は汚い」と思わせる。
坂崎とマティアスが「私」を捕まえさせてくれる人なら、姉は「私」をどこまでも遠くへおしやってしまう人。
ずっと、姉が疎ましかった。そう思っていたけれど、本当は・・・。
最後の夜に、百合は坂崎とマティアスと一緒に、ホテルの地下図書室で写真を探すことに。
かたっぱしから本をめくっていくうちに、百合のがんじがらめの心はゆっくりとほどけていきーー。
本の感想
これまで読んできた西さんの小説と比べると、起承転結のない淡々とした静かな物語。
暗いトンネルを彷徨っていた百合が、坂崎とマティアスと出会ったことで、明るい方へと一歩踏み出すまでを描いています。
根本的な何かが解決したというわけではありませんが、それでも百合と一緒に少し心が軽くなりました。
「自分で不幸になれる人は、自分で幸福にもなれる」
日常に息苦しさを感じると読みたくなる、お守りのような一冊です。
私はこの本を手に取ると瀬戸内海の青い海や空が目に浮かび、なんだかそれだけで癒されています。
舞台となった場所は、西さんが実際に訪れたある島がモデルになっているようです。
具体的には明記されていませんが、おそらく小豆島あたりでしょうか??
一人旅には興味がなかったのですが、この本を読んでからは、百合のように日常を離れてひとり旅立つのも良いなと思うようになりました。
本編の後には文庫化記念として、ともさかりえさんと西加奈子さんの対談が載っています。
残酷に続く日常に疲れてしまった人、膨らんだ自意識に苛まれている人、癒されたい人。そんな人たちに読んでほしい一冊です。
印象に残った言葉(名言)
「私は、「誰かから見た私」でしかない。ずっと誰かの真似をし続けてきた私は、自分の感情の答えを決めることさえ、出来ないのだ」
「誰が見ているわけでもないのに、私はひとりになっても、決して「ひとり」になれない」
「自分が何者であったか、どうあれば自分は自分であるのか、分からない。環境によって、簡単に形を変えてしまう自分。それがあんまり長く続くものだから、私は私が誰なのか、分からなくなった」
「私の行動の基本は、すべて恐怖から来ているように思う。「社会」から取り残される不安、それは、個人にとっての全世界だ」
「まるで、本の墓場のようだ。ここに並んでいるのは、全て死んだ本」
「私はひとりだ。ひとりだひとりだ、ひとりだ」
「お酒は酔っぱらうから怖い、と思っていたが、お酒は酔っぱらうから、いい。そのことは、昔から知っていたはずなのに、私は随分と、不自由な飲み方をしてきた」
「人生は、私が思うほど悪意には満ちていない、難しいものではないのではないか」
「身につけることだけが、人間にとって尊い行為なのではない。何かをかなぐり捨て、忘れていくことも、大切なのだ」
「私の本棚に、世界中の物語が詰まっているのよ」
「日常が続いているからこそ、その残酷さがあるからこそ、私たちは生きていける」
この本の総評
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