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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『ミナトホテルの裏庭には』寺地はるな(著)
前回読んだ『ビオレタ』の雰囲気がとても好きだったので、寺地さんの他の小説も読んでみようと購入した一冊です。
本の概要(あらすじ)
「鍵を首尾よく見つけられたあかつきには、金一封を差し上げる」
大正末期に宿泊施設として建てられた「ミナトホテル」
祖父の旧友である陽子さんのわがままを叶えるべく、ホテルにある裏庭の鍵探しを依頼された芯輔。
ところが、わけありのお客さんばかりを泊める風変わりなそのホテルで、鍵探しだけでなくアルバイトもすることに。
さらには、「平田カラメル」というホテルの猫も探すことになり・・・。
ホテルで出会った人たちを通して気づいた、人と人との繋がり。心に響く感動作。
3つの特徴
ミナトホテルと鍵探し
「鍵を探してきてほしいんだよ」
ある日、一緒に暮らしている祖父から頼みごとをされた芯。
それは、祖父の旧友である湊陽子さんが経営していた、ミナトホテルの裏庭の鍵探しでした。
なんでも、陽子さんの一周忌をミナトホテルの裏庭でやりたいのだとか。
祖父は友人たちと”我儘を言い合い、聞き合うための「互助会」”を結成していて、陽子さんもメンバーのひとりでした。
「私のお葬式は、裏庭でやる」という陽子さんの我儘を叶えるべく、一周忌をミナトホテルの裏庭でやることにしたのです。
しかし、裏庭に入るために必要な鍵がどうしても見つからないらしく、芯に鍵探しを頼んだ祖父。
鍵を探すためにミナトホテルに出向いた芯でしたが、怪我をした篤彦(陽子さんの息子)に頼まれて受付のアルバイトをすることになったり、いなくなった猫探しをすることになったり。
「わけありの客」ばかりが泊まりに来るいっぷう変わったホテルで、芯は大切なことに気づいていくーー。
わけありなお客たち
ミナトホテルは、元々陽子さんの旦那さんが経営していたホテルでした。
旦那さんが亡くなった後は一時休業していましたが、陽子さんがひっそりと営業を再開しました。
そうすると、なぜだか「わけありの客」ばかりが泊まりに来るようになったのです。
家出娘や家がないような人には、家賃程度の金額で長期滞在をさせていたという陽子さん。
そんな陽子さんのことを、祖父たちは「とても優しい人だった」と言います。
そして陽子さんも亡くなり、閉めると思われていたミナトホテルですが、通夜の席で息子の篤彦が「ホテルは、僕が継ぎます」と宣言したのです。
湊さん曰く、ホテルにやってくる客の共通項は「寝ていない」し「食べていない」のだそう。
「事情を抱えていない人間はいない。けどその事情が実寸以上に大きく感じられる時っていうのは、だいたい寝不足か、腹が減っている時だ」
元々塾で働いていた湊さんには、いつか自分の塾をつくりたいという夢がありました。
普通の塾に通えないような子どもが、通えるような塾を。
けれど、そのためにミナトホテルは絶対に売らないと言います。
ホテルを残すのは、陽子さんとの約束なのだとか。
「逃げ場が必要なんだって。世界には」
つらさ判定員
この作品にはたくさんの名言が散りばめられていますが、特に心に響いたのが湊さんの言葉でした。
「家でも、職場でも学校でも、友達のところでもない。逃げ場。疲れたら休めばいいと思う。ほんとうは疲れる前に休むほうがいいけど、休むのがへたくそな人って多いから」
その程度のことでそんなに落ちこむのはおかしいとか、いつまでも引きずるのはおかしいとか、そうやって他人のつらさの度合いを他人が決めることこそおかしい、なんの権利があって他人のつらさを判定しているのだ、君はあれか、つらさ判定員か。そういう職業があるのか、ないよな、えらそうに「たいしたことじゃない」とか言ってんじゃねえよ。
誰かの助けになれるとか守るとか、そんなものは一緒に倒れる覚悟がある相手にしか、ほんとうは言ってはいけないことなのだ。
なかでも「つらさ判定員」という言葉が印象的で、湊さんが言っていることにものすごく共感できました。
その人のつらさを100%理解することはできないけれど、だからといって自分の尺度でその人の抱えているものの重さを測るのは違うと思うのです。
つらさを抱えている人に対して、平気で「そんなのたいしたことない」とか「自分はもっと大変な思いをしている」とか言ってのける人を見ると、ほんとうに張り倒したくなります。
そういった思いを湊さんがズバッと言ってくれた気がして、なんだかすっきりしました。
本の感想
淡々としていて客観的なのに、根底には深い優しさがあって。とても温かくて優しい物語でした。
弱っている人の心に響く言葉が、たくさん散りばめられています。
自分と他人との線引きの難しさ、本当の優しさ、誰かを助けるということの意味・・・
そういったことを改めて考えさせられる作品でした。
主人公の芯は、はじめのうちは冷静で客観的な「冷めてる人」に思えましたが、物語が進むにつれて彼の持つ人間味がだんだんと出てきて、それがとても良かったです。
湊さんから言われた「いい意味で、冷淡だから」という言葉をずっと気にしていたり、実は恋人や友人から頼って欲しかったと思っていたり。
どんなことも淡々と受け流してきた芯が、ある人のために声を上げるシーンも印象的でした。
本編の『咲くのは花だけではない』の後には2つの短編が収録されています。
そのうちのひとつ『手の中にある』では、本編で明かされなかった亡き陽子さんの抱えていたものや、湊への想いを知ることができます。「我儘互助会」結成のきっかけも。
疲れている人、頑張り過ぎている人、眠れない人。そんな人たちに読んでほしい一冊です。
印象に残った言葉(名言)
「きれいな花が咲いている、って声に出して言うと、笑ったみたいな顔になるの。しかめ面しては、言えない言葉なの」
「絶対に逃げちゃいけない、という話ではないんだ。死ぬほど辛い場所で、青筋立ててがんばる必要もない。がんばりどころと、そうでないところを間違えてはいけないということだ」
「大切な人には、頼ってほしいものなんです。我儘を言ってほしいんです。大切な人からあなたは関係ないって言われるのが、いちばん堪えるんです」
「いけないことになっているのかもしれない。世間では。でも世間がなんだというのだろう。世間なんか、と思う。自分自身より大切な世間なんかあるか」
「お節介をやくのは自由だが、せっかく手を差し伸べてやったのにあいつはそれを拒んだ、と怒ったり悲しんだりするのは、それは違う」
寺地はるなさんの他の作品
【No.62】あなたは何を入れますか?大切な記憶をしまう”棺桶”をめぐる物語『ビオレタ』寺地はるな (著)
この本の総評
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