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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『蜜蜂と遠雷』恩田 陸(著)
直木賞と本屋大賞のW受賞をはたした、著者の最高傑作ともいわれる『蜜蜂と遠雷』
読み終えてみて、ここまでの余韻が残る作品はこの先そうそう出会えるものではないなと感じました。
わたしの拙い文章力だとこの作品の良さを伝えきれないと思うので、実際に読んでみて感じたことの一部を書いていきたいと思います。
本の概要(あらすじ)
「やはりこの子はーー音楽の神様に愛されているんだ」
物語の舞台は、三年に一度開催される、芳ヶ江国際ピアノコンクール。
ホフマン氏の推薦状を携えコンクールに参加する、ピアノを持たない謎の少年風間塵。
母親の死をきっかけに表舞台から姿を消した元天才少女栄伝亜夜。
名門音大に通い、才能と実力を兼ね備えたジュリアードの王子様マサル。
”生活者の音楽”を掲げ、楽器店で働きながらコンクールの参加に挑む高島明石。
コンクールの覇者となるのはだれなのか?
ホフマン氏がおくりこんだ風間塵は、「ギフト」かそれとも「災厄」か。
頂点をめぐる闘いのなかで、彼らがみつけたものとはーー
3つの特徴
個性が際立つキャラクター設定
一般的な小説の場合、物語に登場する天才はひとりだと思います。
天才をたくさん登場させてしまうと、その才能を際立たせるのが難しくなってしまいそうですよね。
しかし、この作品ではそれぞれ違う個性を持つ天才たちを掛け合わせることによって、壮大な音楽の世界を感じさせてくれます。
それぞれの特徴を一言で表すとしたら、こんな感じです⬇️
- 風間塵:「天才✖️異端」
- 栄伝亜夜:「天才✖️感性」
- マサル・カルロス・レヴィ・アナトール:「天才✖️王道」
- 高島明石:「優秀✖️努力」
この四人の中でいちばんのポイントは、天才たちの中で唯一登場する「優秀✖️努力」の高島明石。
最年長の明石は、楽器店で働く妻帯者。一般的な、家庭をもつサラリーマンです。
この明石が四人のなかでいちばん読者に近い存在として描かれています。
もし明石がいなかったら、もしくは明石も天才として登場させていたら。
読者が作品に対して感じる距離感は全然違っていたと思います。
読者はほとんどが一般人。天才だけしか出てこなかったら、外から客観的に彼らを見ているだけになってしまいそうですよね?
読者に近い立場の登場人物がいることによって、こちら側の気持ちをちゃんと拾ってくれているのです。
彼の音楽に対して感じている疑問は、普段の生活の中で音楽を楽しむ人たちの心をそのまま表してくれているような気がしました。
「俺はいつも不思議に思っていたーー孤高の音楽家だけが正しいのか?音楽のみに生きる者だけが尊敬に値するのか?と。生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか、と」
圧倒される文章力
この作品には、コンクール参加者以外にも、たくさんの人たちが登場します。
審査員、観客、家族・友人、取材陣、調律師・・・
それぞれの立場の視点から語られることによって、より立体的に感じられる物語の世界観。
絶妙なタイミングで視点が切り替わるので、先へ先へとページをめくる手が止まらなくなります。
予選からはじまり、本選まで。
コンテスタントたちが演奏する場面が、何度となく描かれているこの作品。
同じ人が演奏する場面が何度もあると、新鮮味がなくなり、回を重ねるごとに飽きてしまいそうですよね。
けれどこの作品では、毎回それまでとは違う新しい音楽の世界をみせてくれます。
音そのものを文字で表すことはできないはずなのに、文字がちゃんと音を奏でている。
しかも音が聴こえてくるだけなく、その曲がイメージさせる映像も頭の中に流れるのです。
”目は文字を追い” ”耳はメロディを聴き” ”頭の中は映像が流れる”
気がついたら全身どっぷりと物語の世界に浸っていました。
著者の底なしの語彙力や表現力に、度肝を抜かれます。
ホフマン先生との約束
読み始めてすぐは、音楽の世界はとても閉鎖的なのだなと思いました。
けれど、風間塵の登場をきっかけに徐々に広がっていく音楽の世界。
そんな塵の音楽が起爆剤となって、コンテスタントたちの真の意味での才能を開花させていきます。
コンクールという優勝を決める闘いでありながらも、個々の音楽を認め合い、高め合い、音楽の可能性を無限に広げていく。
物語の焦点は、誰が一番かを決めることではなくて、”音楽を外の世界へ連れ出すこと”
それこそがまさに、塵とホフマン先生の約束なのです。
「僕ね、ホフマン先生と約束したんだ。音楽をね、世界に連れ出すって約束。
先生と話してたんだよ。今の世界は、いろんな音に溢れているけど、音楽は箱の中に閉じ込められている。本当は、昔は世界中が音楽で満ちていたのにって。だから、閉じ込められた音楽を元いた場所に返そうって話してたの。
先生はもういなくなっちゃったけど、僕はそれを続けていくって約束した」
音楽を連れ出すというふたりの約束が、この作品の根底にあるものです。
著者も彼らとともに、音楽を世界に連れ出すため、十二年もの膨大な歳月をかけてこの物語を完成させたのかなと思いました。
本の感想
正直、言葉で表現しきれないものを感じました。
著者の表現力や音楽への深い理解に、ただただ圧倒されます。
時間はかかるかもしれませんが、まだ読んでいない方はぜひ読んでみて欲しいです。
ただ、かなりのボリュームがあり、哲学的な考えや抽象的表現も多いので、読書初心者の方は読みづらく感じるかもしれません。
私は一度読むだけでは全然足りないと思いました。
何度読んでも、きっとそのたびに新しい発見がある気がします。
これだけの大作を読んでまたすぐに読みたくなるなんてことはまずないので、驚いています。
なかなか次の小説へと気持ちを切り替えられないくらい、余韻が残る作品でした。
※最終ページ(解説の直前)にコンクールの審査結果一覧がのっているので、くれぐれも途中で開かないようにご注意ください。
印象に残った言葉(名言)
「結局、誰もが「あの瞬間」を求めている。いったん「あの瞬間」を味わってしまったら、その歓びから逃れることはできない。それほどに、「あの瞬間」には完璧な、至極体験と呼ぶしかないような快楽があるのだ」
「衝撃だった。あの、極彩色の音楽。生命の歓びに満ちた音楽。ステージから溢れ出してくるかのような、圧倒的な神々しい音楽。この子は、音楽の神様に愛されてるんだ」
「塵は私の置き土産だ。世にも美しい、ギフトなんだ」
「幸福。幸福だ。世界はこんなにも音楽に溢れている。僕は室内から音楽を連れ出して、共に世界に満ちていこうとしている」
調律師の視点でピアノと音楽の世界を描いた作品『羊と鋼の森』を読んでから本書を読むと、よりこの作品への理解が深まると思います。
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