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【芥川賞受賞】不安定で奇妙な世界に魅了される摩訶不思議な小説『むらさきのスカートの女』今村夏子 (著)

こんにちは、ぽっぽです。

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『むらさきのスカートの女』今村夏子(著)

ずっと楽しみにしていた今村夏子さんの作品。

意外と気持ち悪さは控えめでしたが、この独特な不穏さはやっぱり今村さんだなと。

読みやすくてユーモアもあるけれど、どこか不気味でゾワっとする読み心地がたまらない。

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本の概要(あらすじ)

「あなたはむらさきのスカートの女を知っていますか?」

わたしの近所には「むらさきのスカートの女」と呼ばれる人が住んでいる。

わたしが日々むらさきのスカートの女を観察しているのは、彼女と友達になりたいからだ。

そこでわたしは三ヶ月かけて、彼女が自分の職場で働くように誘導をし……。

第161回芥川賞受賞作。文庫本は受賞記念エッセイ付き!

こんな人におすすめ

本書をおすすめしたいのはこんな人↓

  • 芥川賞作品に挑戦したい人
  • 摩訶不思議な物語が好きな人
  • わかりやすい結末を求めない人

本の感想

「芥川賞の作品ってなんだか読みづらそう」

と思っている方におすすめしたいのがこちらの作品。

そもそも今村夏子さんの小説は平易な言葉で書かれているためとても読みやすいのだが、本書も違わずだ。

著者のファンの方はもちろん、普段あまり本を読まないという方にもぜひ手に取ってみてほしい。

では早速内容について。

語り手は「黄色いカーディガンの女」

<うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる>

こんな一文から始まる本書だが、冒頭からもわかるように本書の語り手は「むらさきのスカートの女」ではない。

語り手の「わたし」によると、むらさきのスカートの女はあまり若くはないそうだ。

頬にはシミがあり、髪の毛はパサパサ。

そして彼女はいつも、パン屋で購入したクリームパンを公園のベンチ(「むらさきのスカートの女専用シート」)で食べているらしい。

他にも、むらさきのスカートの女にはどんな人混みでもスイスイ歩けるという特技があること。

近所の子どもたちの間では、彼女の肩にタッチする遊びが流行っていること。

このようなむらさきのスカートの女にまつわるあれこれが、「わたし」により淡々と語られている。

しかし、ここで浮かび上がった一つの疑問。

なぜ「わたし」はこんなにも、むらさきのスカートの女について詳しいのか。

異常な執着と奇妙な行動

<わたしはもうずいぶん長いこと、むらさきのスカートの女と友達になりたいと思っている>

そう、この語り手はむらさきのスカートの女と友達になりたいが故に、日々彼女を観察しているのだ。

俗に言う「ストーカー」である。

自分のことは何一つ語らず、ただひたすらに

「わたし」のむらさきのスカートの女に対する異常な執着は薄気味悪く、でも時々笑ってしまうくらい滑稽だ。

そんなむらさきのスカートの女と友達になりたい「わたし」が考えた末にとった行動。

それは、公園のベンチに求人情報誌を置いて、彼女を自分の職場(ホテルの客室清掃員)に誘導することだった。

しかしめでたく(?)同じ職場で働くようになっても、なぜだか「わたし」はこっそりと彼女を観察するのをやめない。

友達になりたいといいながらも、この語り手の行動はどこか奇妙なのだ。

ここで私は自分の興味が「むらさきのスカートの女」から、語り手である「黄色いカーディガンの女」へと移っていることを自覚した。

黄色いカーディガンの女が「むらさきのスカートの女」を観察するように、いつの間にか私も「黄色いカーディガンの女」を観察していたのだ。

彼女はいったい何者なのか。なぜむらさきのスカートの女に固執するのか。

そもそもなぜこんなにも近くで観察していながら、存在を気づかれていないのか。

もしかしてむらさきのスカートの女というのは「わたし」の空想なのか?

いや、もしかすると同一人物なのか?

まさか透明人間なんてこともありえるのか……?

と頭の中は撹乱状態なわけだが、これほど信用できない語り手というのもまた珍しい。

徹底して自分を排除した語り口からはどこか孤独の影を感じるが、もしかしたらこの孤独が「わたし」の世界を歪ませているのかもしれないと感じた。

不安定な魅力

そしてこちらの混乱をよそに、不穏な空気はしだいに濃くなってゆき。

だんだんと「普通の女」になっていくむらさきのスカートの女とは裏腹に、徐々に「やばい女」へ近づきつつある黄色いカーディガンの女。

わかりやすい結末がない点について不満に思う人もいるだろが、私はこのラストにどこか安堵してしまった。

現実か空想かは定かではないが、「黄色いカーディガンの女」はついに落ち着ける場所を見つけたのではないだろうか。

確かなことは何一つとして存在しないが、その足元がおぼつかない感じもこの作品の魅力だ。

これはホラーなのかサスペンスなのか、はたまた恋愛小説なのか。

読み終えてもなお自分が何を読んだのかがわからない、そんな摩訶不思議な小説であった。

 

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この本の総評

 

読みやすさ
(5.0)
構成
(5.0)
不気味
(5.0)
読後感
(4.0)
総合評価
(5.0)

 

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