※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています
こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『アリス殺し』小林泰三(著)
不思議の国のアリスが大好きなので、読んでみました。
アリスの世界観が好きか苦手かで、この作品の好みも変わってくると思います。
本の概要(あらすじ)
「ハンプティ・ダンプティは殺されたんだ。これは殺人事件だ」
大学院生の栗栖川亜理は、最近不思議の国に迷いこんだアリスの夢ばかり見ている。
ある日、ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た亜理は、翌日大学で王子という研究員が転落死していたことを知る。
もしかして、不思議の国の夢と現実がリンクしている・・・?
その後も不思議の国でおこる、怪死事件。そのたびに現実世界でも誰かが死んでいく。
不思議の国では帽子屋と三月兎が、殺人事件の容疑者にアリスを名指し・・・
不思議の国と現実世界が交錯する、メルヘン×ミステリ!
3つの特徴
不思議の国のアリスの世界
タイトルからもわかるように、この作品は「不思議の国のアリス」の物語が軸になっています。
白兎、チェシャ猫、眠り鼠、メアリーアン、蜥蜴(とかげ)のビル、ハートの女王・・・
実際の物語に出てくる不思議の国の住人たちが、この作品でもたくさん登場します。
そして、不思議の国のアリスといえば、「堂々巡りの会話」ですよね。
本書でもこの一向に進まない堂々巡りの会話が満載です。
私はこの会話が好きなので全く苦痛ではなかったのですが、一向に進まない会話に嫌気がさしてしまう人もいるかもしれません。
途中で読むのをやめたくなるかもしれませんが、それはもったいないです!
中盤あたりまでは堂々巡りの会話に多少もたつきますが、だんだんスピード感もあがっていくので、最初読みづらく感じてもなんとか乗り越えてほしいです。
「君がシリアルキラーだから、らしいよ、アリス」
「それこそ何の根拠もないわ」
「ハンプティ・ダンプティとグリフォンを続けて殺しているのだから、シリアルキラーに決まってると言っていた」
「わたしはどちらも殺していない」
「どうして言い切れる?」
「だから、理由がないでしょ」
「理由は君がシリアルキラーだから」
「だから、その根拠は?」
「ハンプティ・ダンプティとグリフォンを続けて殺しているから」
こんな感じの会話が延々と続きます。
独特の不気味さ
古典的な作品って、どことなく不気味に感じることはないですか?
ほんとうは怖いグリム童話、なんていうのもあるくらいですし。
「不思議の国のアリス」もまた、独特の雰囲気がありますよね。
登場人物にしろ噛み合わない会話にしろ、わけのわからなさがどことなく不気味な雰囲気を醸し出している気がします。
そんな不思議の国のアリスが持っている不気味さや不条理さを、より際立たせているのがこの作品だなと思いました。
不思議の国にしろ現実世界にしろ、どちらの世界の住人からもあまり”感情”や”人間味”を感じられないので、いっそう不気味です。
でもその不気味さがなんだかクセになって、どんどん物語の世界に引き込まれていきます。
ちなみに、この作品にはグロテスクな描写も含まれているので、苦手な人はご注意ください。
本格論理的ミステリ
独特の世界観や、個性的な登場人物たちに気を取られがちですが、ミステリとしても本格的です。
私は注意深く読んでいたものの、ミスリードにすっかり騙されてしまいました。
緻密に計算された論理的ミステリに脱帽です。
言葉巧みに誘導するというよりも、読者の常識や思い込みの部分をうまく突いているな、という感じ。
不思議の国で誰かが死ぬと、現実でも誰かが死ぬ。
不思議の国でハンプティ・ダンプティ殺害事件の犯人にされてしまったアリスは、真犯人探しに奔走します。
一連の殺人事件の犯人は誰なのか?ふたつの世界の驚きの真実とはーー?
あなたはこの真相を、見抜けますか?
本の感想
はじめて読んだ作品ですが、アリスの世界観もミステリ要素もどちらも楽しめる作品でした。
最後に「やられた!」と舌を巻く作品には最近出会えていなかったのですが、この作品は注意深く読んでいても、二転三転して予想の上をいかれました。
不思議の国のアリスの世界観も、忠実に再現しつつもアレンジが効いていて、元々の作品の”不気味さ”がより際立って感じられました。
堂々巡りの会話やグロテスクな描写など、苦手な人は苦手かなと思います。
私は著者の描く独特の世界観がなかなか好きだったので、他の作品『クララ殺し』や『ドロシイ殺し』も読んでみようかなと思いました。
印象に残った言葉(名言)
「スナークはブージャムだった」
「この一言で世界が崩壊しようが知ったこっちゃないわ。そもそも世界は最初からこうなっていたんだもの。そうでしょ?」
「眼鏡なんぞに頼ったら、目に見えるものしかわからなくなる。人間も同然だよ」
「世界は終わらないよ。ただ、夢が一つ終わるだけさ」
この本の総評
[…] >>「アリス殺し」のレビューはこちら […]