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こんにちは、ぽっぽです。
224冊目はこちら↓
『境界線』中山七里(著)
東日本大震災で心に傷を負った人々を描いたヒューマンミステリー。
佐藤健さん主演で映画化された『護られなかった者たちへ』につらなる“宮城県警シリーズ”二作目の物語です。
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本の概要(あらすじ)
「もう僕は海といったら、その真っ黒の海しか思い浮かばないんですよ」
宮城県気仙沼市南町の海岸で発見された、女性の変死体。
女性の遺留品から、遺体は宮城県警捜査一課警部・笘篠誠一郎の妻であることが判明した。
連絡を受けた笘篠は身元確認のために現場へ急行したが、そこで目にしたのはまったくの別人でーー。
こんな人におすすめ
本書をおすすめしたいのはこんな人↓
- 『護られなかった者たちへ』を読了済みの人
- 社会派ミステリーが好きな人
- 震災をテーマにした物語に抵抗がない人
本の感想
『護られなかった者たちへ』に続く、宮城県警シリーズ待望の続編です。
今作の主人公は、前作にも登場した笘篠刑事。
宮城県内で起きた“二つのなりすまし事件”の真相と、その黒幕を捜査するというヒューマンミステリーです。
ネタバレを避けるため、大まかな内容にだけ触れていきます。
個人情報を売る者と買う者
物語の舞台は東日本大震災から七年が経過した宮城県。
ある日、海岸で発見された女性の遺体が妻であると連絡を受けた笘篠刑事。
笘篠の妻は震災で津波に流され、以来息子とともに七年間行方不明のままとなっていました。
そんな妻の遺体が、今になって発見されたというのです。
しかも、遺体の様子から彼女は前夜まで生きていたことが判明したらしく。
それを聞いて、笘篠は激しく動揺します。
生きていたのなら、今まで一体どこにいたのか。なぜ自分の元に戻ってこなかったのか……。
しかしそんな疑問を一瞬で吹き飛ばす事態が。
なんとその遺体は笘篠の妻ではなく、全くの別人の遺体だったのです。
ではなぜ警察は笘篠の妻だと勘違いしたのか。
それは、女性が所持していた運転免許証の内容が、笘篠の妻のものだったからです。
免許証の氏名も住所も間違いなく妻のもの。しかし、そこに写っている写真は全くの別人。
つまり、この免許証は偽造されたものだったのです。
どういうわけか遺体の女性が妻の名前を語り、自分の知らないところで笘篠奈津美として生きていた。
そして妻の個人情報を流している人間がいる。
笘篠は刑事として、そして関係者として真相を明らかにするべく捜査を開始します。
皮肉な現実
本書はシリーズ二作目ではありますが、内容的には独立しているので、前作『護られなかった者たちへ』を未読の方でも問題なく読めると思います。
ただ、刑事の笘篠や蒲田をはじめとする前作の登場人物がちらほら登場するので、読んでいるに越したことはないかなと。
本書では意外にも五代の過去が掘り下げられていました。
彼の高校時代の出来事やとある出会いについて描かれているのですが、個人的に一番印象的だったのは刑務所内での話。
(チラッとですが利根も登場します)
震災当日、刑務所内のテレビで外の様子を知った五代。
(当時五代は詐欺で捕まり刑務所に収容されていました)
瞬く間に街を呑み込んでいき、全てを無慈悲に押し流す津波。
五代はテレビの前で、生まれ育った街が呆気なく破壊されていく様をただ見ているしかありませんでした。
その恐怖は計り知れませんが、彼が頑丈な刑務所の壁で守られているのも事実で。
塀の外側では一般市民がライフラインを断たれ、ひもじい思いをしながら寒空の下で震えている。
一方で悪事を働き、罰を受けているはずの自分たちは安全な塀の中で、何事もなく三度の食事にありつけている。
それだけでなく、囚人たちは収容されていたお陰で無事でいられましたが、無辜の人々は家屋とともに流されてしまったのです。
これ以上ないくらい皮肉な話ですよね。
私はこの事実に憤りを感じましたが、だからと言ってこの矛先をどこに向ければいいのかわからず。
刑務所に入っていたか否かも生死を分ける境界線だったのかと思うと、なんだかとても複雑な気持ちになりました。
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さまざまな境界線
本書には震災によって引かれてしまった、いろんな境界線が描かれています。
私は本書を読んで、自分がこれまでどこか「被災者」と一括りに考えていたのではないかということに気付かされました。
震災被害に遭った人たちはみんな同じ痛みや苦しみを抱えているのではないかと。
でも、きっとひとりひとり抱えているものは違うんですよね。
あのときどこで何をしていたのか。誰かといたのか、一人だったのか。
何を見て何を見なかったのか。誰を助けたのか、助けられなかったのか。
震災によって失くしたもの、味わった恐怖、抱える後悔などはきっと人それぞれ異なっていて。
<震災被害に遭ったか否か>という大きな境界線の内側にもまた、きっと目には見えないいくつもの境界線が引かれているのだろうなと感じました。
それをきっと肌で感じ続けている人もいるのだと。
愛する人の死を受け入れらない人もいれば、感情を押し流されてしまった人もいる。
自分ではどうすることもできない境界線が、事件を引き起こすきっかけになっているのが哀しくて。
(だからと言って罪を犯していい理由にはなりませんが)
不条理に引かれてしまった線がある一方で、自分の闇と闘い続けることで、なんとか踏みとどまれる境界線もあるのではないか。
そんなことを考えさせてくれる作品でした。
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まとめ
本書は震災をきっかけに境界線を越えてしまった人たちが描かれています。
前作に比べるとミステリー要素は薄いですが、その分被災者たちの心の傷が丁寧に描かれていて。
震災は命だけでなく、心の中の大切なものまでもを奪ってしまうのだと改めて痛感しました。
重たい内容なので心にずっしりときますが、個人的には暗いだけの物語ではなかったのかなと。
たくさん考えさせられる作品なので、手に取ってみてください。
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印象に残った言葉
「災いは公平ではない。あれだけ大規模な災害であっても、被災した者と免れた者がいる。多くのものを失った者と失わなかった者がいる。優越感と劣等感、同情と失意、安堵と嫉妬、両者には立場を異にした精神的な対立がある」
「人為では避けられなかった悲劇だったから、失うものがなかった者は失った者に罪悪感がある。被害を免れたことに引け目を感じる。不合理で意味のない配慮だが、だからこそ人間らしい弱さとも言える」
「名前を持った人間として認識されるには身体が存在するだけじゃ不充分なんだ。記録と記憶の両方が要る。その二つがないと、ここに立って息をしていてもそいつは存在していないことになる」
「羊の皮を被った狼でも、狼の皮を被った羊でもいい。およそ中身と合わない被り物をしたところで生きづらくなるだけです。生き辛さの果てもあるのは大抵が悲劇でしょう」
「幸福の度合いを測る物差しは様々で人によって異なる。生活の上辺を見ただけで他人の人生を評価するなどあまりに傲慢だ。百歩譲って人生の価値を決める基準があるとすれば、それは懸命に生きたかそうでないかの違いではないか」
「同じ喪失と死を目の当たりにしたにも拘らず、自分は怯え、鵠沼は無頓着になった。いったい、この差異は何に起因するものか。二人を分け隔てた境界線はどこにあったのか」
この本の総評
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