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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『落下する夕方』江國香織(著)
三角関係の恋愛小説を江國さんの感性で描くと、こんなにも不思議な魅力にあふれるのだと感心した作品です。
本の概要(あらすじ)
「私ね、華子さんと住んでるの」
8年間同棲していた恋人・健吾が突然家を出た。
他に好きな女ができたのだ。
健吾と入れ替わりに家にやってきたのは、なんと健吾の新しい恋人・華子だった。
押し切られるようにして始まった、梨果と華子の奇妙な同居生活。
はじめは戸惑っていた梨果だったが、しだいに華子の不思議な魅力に取りつかれていきーー
奇妙な男女の三角関係を、独特の感性で描いた恋愛小説。
3つの特徴
ふたりの別れ
「引越そうと思う」
そんな言葉で告げられた、ふたりの別れ。
梨果は何度も健吾を引き留めましたが、それでも健吾は家を出てしまいました。
私は、健吾がでていったあとも泣き喚いたりしなかった。仕事も休まなかったし、お酒ものまなかった。やせも太りもしなかったし、友達に長電話をしたりもしなかった。怖かったのだ。そういうことをどれか一つでもしたら、別れが現実に定着してしまう。これからの人生を、ずっと健吾なしでやっていかなくてはならないなんて、私には到底信じられないことだった。
別れてからも3日おきにかかってくる、健吾からの電話。
友人からは、追いかけるか新しい恋をするかしなさいと言われますが、梨果はこのままでいいのだと言います。
「このままでいいの。まったく大丈夫」
欠けたところは欠けたままにしておきたかったし、そこは勿論健吾だけの場所だ。
梨果の健吾に対する気持ちは、愛情なのか?それとも・・・?
華子という女性
健吾と入れ替わるようにして家にやってきたのが、ふたりの別れの原因でもある”華子”。
「私たち3人にとって、完璧な解決策だと思ったんだけど」
華子には住むところができるし、梨果は家賃が払えるようになる(半分の8万を華子が出すという)、健吾は華子の居場所と梨果の家賃の心配がなくなる。
「どうして健吾と住まないの」と聞く梨果に「ここの方が快適だもの」とこともなげに言う華子。
そんなふうにして始まった、共同生活。意外なほど華子は同居人として優秀で、あたりまえのようにただそこにいます。
どちらでもおんなじみたい。
そう思って自分でぎょっとした。奇妙なことに、一緒に暮らす相手が健吾でも華子でも、私にはあまり違いがないようなのだ。
私もこの文章を読んで、ぎょっとしました。けれど、そう思わせるほどに華子は日常にしっくりと馴染んでいるのです。
ふたりの同居を知り「平気なのか?」と理解できない顔で梨果に聞く健吾。
「結構気があうよ、私、華子と」
すっかり華子の不思議な魅力に取りつかれてしまった梨果。
奇妙な三角関係のゆくえはーー?
少しの洋服と下着、靴2足、歯ブラシ、歯みがき、チューインガム、ラジオ1台、本1冊、毛布1枚、ヘチマコロン1壜、口紅1本。
辿り着いたところ
梨果と華子の共同生活がたんたんと続き、単調になってきたところで、物語が動きます。
「じゃあ、梨果さんも一緒に逃げる?」
華子のそのひと言で、ふたりは日常からの逃亡へ。
「逃げるのってものすごく苦痛ね」
そういう梨果に、華子はたのしそうに、うたうように言います。
「私はいつも逃げてばっかり」
「そういう人生なの、逃げまわって逃げまわって、でも結局逃げられない」
湘南の別荘で一晩を過ごしたふたり。先に家に戻った梨果は、華子の帰りを待ちますが・・・。
華子はなにから逃げているのか?謎に包まれた彼女の最後はーー?
”衝撃のラスト”とも言えるような結末を迎えますが、不思議と驚きや違和感はありませんでした。
「あぁ、そうなんだ」と心にストンと落ちるような感覚です。
本の感想
不思議な魅力に惹きつけられてしまう作品です。
嫉妬や執着、惰性などの人間のかっこ悪い部分を描きながらも、どこまでも透明できれい。
江國さんの描くどこか変わっている女性が好きなのですが、今回の華子の魅力は本当に捉えどころがありません。
なぜ健吾はそんなにも華子に惹かれたのか?なぜ梨果は華子を追い出さないのか?
最初はそんなふうに思っていましたが、気づいたら私もそこに華子がいるのが日常で、いないと物足りない。そんなふうに感じるようになっていました。
彼らと同じように、私も華子に狂わされてしまったひとりなのかもしれません。
梨果が15ヶ月もの時間をかけて、ゆっくりと失恋していく様子が、切なくて温かくて。
江國さんにしか描けない、しずかで冷静であかるくて残酷な、そんな恋愛小説です。
江國香織さんの他の作品
【No.8】~静かな狂気と、果てない旅の物語~ 『神様のボート』 江國 香織(著) 【No.42】~風変わりでいとおしい家族の物語〜 『流しのしたの骨』 江國 香織(著) 【No.50】~少女と大人のあいだで揺れる女子高生の孤独と幸福を描いた物語〜 『いつか記憶からこぼれおちるとしても』 江國 香織(著) 【No.72】〜風変わりな一族を描いた、愛と秘密にあふれる物語〜 『抱擁、あるいはライスには塩を』江國 香織(著)印象に残った言葉(名言)
「怖かったのだ。結婚は愛情の墓場だ、と思っていた。実際、私たちは最新の注意を払ってきた。一緒に住んではいても、それが結婚に似てしまわないように」
「わらうときはね、嬉しかったり可笑しかったりして、わらおうと思って、それでわらうのよ」
「好意を注ぐのは勝手だけれど、そちらの都合で注いでおいて、植木の水やりみたいに期待されても困るの」
「おわっちゃうときに淋しくなるところが好きなの」
「一度外にでてしまったら、帰ることなんてできないのよ」
「私ね、空は好きよ。海よりずっといい」
この本の総評
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