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【No.208】世界の終わりをめぐる壮大で美しい群像劇『滅びの園』恒川光太郎(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『滅びの園』恒川光太郎(著)

久々に恒川光太郎さんの長編小説。

相反する二つの世界を描いたSFファンタジーでしたが、とても印象的な物語でした。

読み始めたら止まらなくなり最後まで一気読み。

世界の終わりを巡る、壮大で残酷で美しい群像劇でした。

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本の概要(あらすじ)

「さあ、いこう。夢の世界を滅ぼしに」

 

ある日突然地球に現れた謎の生命体・プーニー。

 

天空の<未知なるもの>に呼応して増殖し、人々と地球をのみ込もうとしていた。

 

着実に滅亡へと近づいていく世界。

 

未曾有の危機に直面した人類は、特異体質の有志に希望を託して、最後の大きな賭けに出るーー。

 

世界の終焉を巡り、人々の想いが交錯する壮大で美しいSF群像劇。

3つの特徴

SFファンタジー

主人公は、日常に疲れ切っていたサラリーマン・鈴上誠一。

彼がある日が迷い込んだのは、とても不思議な街でした。

ファンタジー感あふれる平和で穏やかな、まるで絵本の中のような世界。

自分がなぜここにいるのか、そしてなぜ出ることができないのか。

何もわからない状態ながらも誠一はだんだんとその街に馴染んでゆき、いつしか彼にとって大切な場所へと変わっていきます。

そんな矢先に彼の元に届いた、一通の手紙。

この手紙をきっかけに、物語は驚くような内容へと発展します。

なんと誠一が元々いた世界、つまり地球が謎の生命体に侵食され、人類が滅亡に追い込まれているというのです。

そしてこの最悪な事態を解決できるのは、誠一だけだと。

つまり、世界の命運が誠一に託されてしまったのです。

メルヘンチックなファンタジーから、未曾有の事態が襲うSFへ。

ユートピアとディストピア、両極端の世界を行ったり来たりしながら進む物語が行き着く先は……?

善と悪

自分のいる世界を守りたい誠一と、現実世界を守りたい地球の人々。

誠一の立場では、彼のいる平和で穏やかな夢の世界が「善」。

そして自分の大切な場所や人を滅ぼそうとする現実世界が「悪」ですよね。

逆に現実世界では夢の世界そのものが「悪」で、地球を滅びから救うことが「善」。

異なる価値観が渦巻く二つの世界の攻防は、見ていてとても息苦しく感じました。

そもそも「滅びの園」とはいったいどちらの世界のことを指しているのでしょうか。

誠一のいる夢の世界なのか、それとも地球なのか。

どちらが“滅びる園”で、どちらが“滅ぼす園”なのか。

たくさんの人たちの思いが交錯する、切ない物語でした。

ざらりとした読後感

ラストの描き方については好みが分かれるのかもしれませんが、みなさんはこの結末をどう感じましたか?

「腑に落ちた」という人よりも、どこか割り切れなさを感じた人の方が多いのではないでしょうか。

爽快感のあるラストとは言えませんが、個人的にはこのざらりとした感触が残る読後感は嫌いじゃない。

きっとこの物語自体に誰もが納得する「正解」はないのだと思います。

仮にこのラストと異なる結末だったとしても、また違う割り切れなさを抱えるような気がするので。

ハッピーエンド!めでたしめでたし!という結末ではありませんが、これもまた一つの答えだなと納得できる最後。

どのように世界の終わりを迎えるのかは、ぜひご自身で確かめてみてください。

読後の余韻がすごかった……

本の感想

読み始めた瞬間に「これは面白いぞ……!」とゾワゾワとした興奮をおぼえた作品。

 

大事に読もうと思ったのに、結局我慢できずに最後まで一気読みしてしまいました。

 

章によって人が、視点が、価値観が、善悪がくるくると変わっていく。

 

<未知なるもの>を軸とする両極端な世界は、どちらも強い引力を持って読者を物語の中へと引き摺り込みます。

 

語り手となる人物たちの様々な想いや決断が読者に投げかける、正解のない問い。

 

「自分がこの人の立場ならどうするか?」と、自問自答を繰り返しながら読んだ方も多いのではないでしょうか。

 

私は本書を読んで改めて善悪や幸・不幸は表裏一体の関係ではなく、決して線引きすることのできない曖昧なものなのだと実感しました。

 

解説にも書かれていたトロッコ問題やオメラスの話、そしてこの物語のような「正解のない問い」。

 

まさにこういった問いを、あえて“SF”という設定を用いて描いた作品なのかなと思います。

 

久々に著者の世界観にどっぷり浸れて大満足。

 

壮大で残酷な内容にも関わらず、どこか美しく、そしてとても読みやすい作品なのでぜひ読んでみてください!

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印象に残った言葉(名言)

「世界って基本的に常にヤバイよね。ヤバイのが世界なんじゃない」

 

「望まれていないなんて、赤の他人の私にわかるはずがないではないか?何より、本人が望んだ場所を死に場所として何が悪いのだろう?私はあの人の死に場所を理由もなく奪ったのだ」

 

「なんだか私、改めて思ったの。人間って、時代の影響からは逃れられない生き物なんだろうなって」

 

「ぼくでなければいけないものなんてこの世にはないんだよ」

 

「死ぬまでは死なないよ。それはどこでも一緒だよ」

 

「自分がどう生きたか自分で知ることができてよかった。百回繰り返しても百回あなたたちの敵にまわるよ」

 

「あなたは自分のしたことに信念を持もち、それを悔いることがない。私はそこに感心するのです。それならば、私もまた、自身の感情に従い、そしてそれを実行し、誇りをもち悔いることなく生きようと思います」

 

「俺は希望を捨てたのか?絶望作戦に屈したのか。いや、希望とは内なるもの。神聖で侵しがたい領域にあるもの。誰にも奪い去ることなどできない」

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
世界観
(5.0)
ファンタジー
(5.0)
読後感
(4.0)
総合評価
(5.0)

 

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