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こんにちは、ぽっぽです。
226冊目はこちら↓
『常設展示室』原田マハ(著)
原田マハさんのアート短編小説集。
実在する六枚の絵画と迷える女性たちが織りなす、ささやかながらもドラマチックな物語が詰まっていました。
初めてアート小説に挑戦する方にもおすすめの一冊です。
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目次
本の概要(あらすじ)
「ふとした瞬間に、心に浮かぶ風景がある」
突然の病、家族とのすれ違い、束の間の夢と、忘れられない記憶
人生の岐路に立たされた人々に寄り添うのは、一枚の絵画だった。
ピカソ、フェルメール、ラファエロ、ゴッホ、マティス、東山魁夷。
実在する絵画たちが、迷える者を優しく原点へと導く六つの物語。
こんな人におすすめ
本書をおすすめしたいのはこんな人↓
- アート小説を初めて読む方
- 美術館に足を運ぶきっかけをもらいたい方
- 芸術の秋にぴったりな一冊をお探しの方
本の感想
本書は実在する絵画をテーマに紡がれた、六編の物語を収録した短編小説集です。
それぞれの物語に関連性はありませんが、全編通してとある絵画との「再会」というテーマが根底にあるのかなと感じました。
人生の岐路に立つ女性たちが主人公ということで、内容自体は明るく楽しいものばかりではありません。
ときに残酷だったり、切なかったり。
でもご安心を。
どの物語の主人公も、最後には確かな決意とともに一歩踏み出す姿が描かれています。
短編なのでサラサラと読めますが、余韻が心地よく、読後はなんだか心が整うような感覚がしました。
今回はそんな中でも特に印象に残っている二編をご紹介したいと思います。
「群青 – The Color of Life- 」
登場する絵画:『盲人の食事』(ピカソ)
あらすじ
「彼の大好きな飲み物が、あの中に入っていますように」
ずっと憧れ続けていた「メトロポリタン美術館」で働き始めて五年。
決して余裕があるとはいえない中でも、美青(みさお)は大好きなアートに囲まれて充実した生活をおくっていた。
しかし、そんな彼女を襲った、突然の悲劇。
絶望の淵に立たされた美青だったが、パメラという少女との出会いが、大切なことを思い出させてくれて……?
感想
悲しい涙の先に温かい涙がこぼれ落ちるような、そんな素敵な物語でした。
美青を襲った“非劇”と、ピカソの“青の時代”。
これらを重ね合わせることで著者が表現しているのは、たぶん「絶望」や「苦悩」だけではないはず。
(「青の時代」は社会的弱者や負の感情を表現していると言われています)
悲劇の物語で終わらないのは、きっと美青が青の時代から「励まし」や「希望」を受け取ったからだと思います。
また、この物語で印象的に描かれていた、子どもとアートの“出会い”。
まっすぐな瞳で絵画を見つめる幼い頃の美青やパメラの姿は、とても微笑ましくて。
それと同時に「絵なんて全然わからないし、専門的な知識もないし……」と勝手にハードルを上げてしまっていた自分にも気がつきました。
そんな私に「ただ純粋な心で絵との対話を楽しめばいいんだよ」と、子どもたちが教えてくれたような気がします。
そんな彼女たちがこれからもアートと共に生きていけますようにと、願わずにはいられないラストでした。
「道 – La Strade- 」
登場する絵画:『道』(東山魁夷)
あらすじ
「じゃあ、行きます。この道を」
「新表現芸術大賞」の審査員を務める、美術評論家の貴田翠(みどり)。
彼女は今、審査会で出会った一枚の水墨画に心を奪われていた。
見たことのある色、筆触、構成、そして懐かしい風景。
その作品を見た瞬間から、翠は自分の記憶を追いかけ続けていた。
もう少しで思い出せる。あの絵を描いたのが、誰なのかーー。
感想
全編の中で、私が一番好きな物語。
ピカソやフェルメール、ゴッホなど、誰もが知る画家の名画が登場する中、この物語で主人公の心を動かすのは「無名の画家の絵」なんですよね。
名もなき画家が描いた、一枚の水墨画。
他の審査員は目もくれませんが、主人公の心を惹きつける“何か”がその絵にはありました。
一枚の絵画を描いた者と、それを審査する者。
絵画がもたらした出会いの先に描かれていたのは、思いがけない「再会」。
物語としては、出来すぎているのかもしれないし、ドラマチックすぎるのかもしれません。
でも、やっぱりすごくいい。
この絵はたくさんの人を魅了することはできなかったかもしれないけれど、たった一人、届いて欲しい人の心に届いた。
だからこそ、主人公が言った「傑作です」の一言に、涙腺が緩みました。
絵画の中の「道」、記憶の中の「道」、そして今ここにある「道」。
それらが繋がった瞬間に吹き抜けた清々しい風と、どこまでも続く一本道。
その感覚とイメージを、私はこの先何度でも思い出すような気がします。
アート小説への入り口
本書はこれまで「アート小説を読んだことがない」という方にもおすすめな一冊です。
というのも、本書は絵画そのものをめぐる物語というよりは、主人公の心象の変化に焦点を当てた物語だから。
芸術の世界を垣間見ることができますが、自然と物語に溶け込んでいるので抵抗感なく読めると思います。
アート小説に興味がある、美術の世界に一歩足を踏み入れてみたいという方に、まさにぴったりな一冊なのです。
上白石萌音さんは解説で「この本は美術館への招待状だ」と表現されていますが、まさにその通りだなと。
「アートへの扉はだれにでも開かれているのです」というメッセージが、物語の端々から伝わってきました。
まとめ
一枚の絵画と向き合う人たちの息づかいが伝わってくるような、そんな作品でした。
全体を通して、主人公の心象の変化と絵画が絶妙にリンクする、バランスの良い作品だと思います。
すごく単純かもしれませんが、本書を読んで私も常設展示室に足を運んでみたくなりました。
美術館というと敷居が高い感じがしますが、本屋さんに小説を探しにいくような感覚で、アートと出会いに美術館に行ってみてもいいのかなと。
私にとっての「本」が、主人公たちにとっての「絵画」なのだと思うと、なんだかグッと彼女たちと距離が縮まったような気がします。
原田マハさんの作品を読むまでは、私もアート小説はハードルが高いと思っていたのですが、そういう方にこそぜひ読んでいただきたい一冊。
読めばきっと、美術館に足を運びたくなると思います。
賑わっている企画展ではなく、
静寂の中、いつでもあなたを待っている常設展示室に。
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印象に残った言葉
「もしも、あなたがひとりで、いちばん好きな作品の前にいるとしたら、どう?まっすぐ立って、じいっとその作品をみつめるでしょう。あなたその作品がふたりきりだったら、きっとまじめに向かい合うはずよ」
「けれど、ピカソが描きたかったのは、目の不自由な男の肖像じゃない。どんな障害があろうと、かすかな光を求めて生きようとする、人間の力、なんです」
「きのうの続きの今日がこの街にはある。今日の続きの明日が、またきっとくる」
「ーーこの世でもっとも贅沢なこと。それは、豪華なものを身にまとうことではなく、それを脱ぎ捨てることだ」
「作品が観る者の関心を奪うのには一秒もかからない。第一印象が決まるのには三秒。細部が見えてくるのに十秒。それがすぐれた作品と察知するのに、もう十秒」
「ほんとうの感動は作品を観終わったあとについてくる。たとえばその作品を観たのが美術館なら、そこを出て、食事をして、電車に乗り帰宅し、眠る直前まで、観た人の一日を豊かにし続ける。それが名作というものだ」
「多くのものを捨てたんだと、僕は思います」
「全部捨てた。そうしたら、道が見えてきた。この絵を見ていると、そんなふうに感じます」
この本の総評
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こんばんは。
自分も『常設展示室』読みましたよ。
とても良かったです。
温かい気持ちになれました。
そのうえ特にラストの「道」を本当に素晴らしいと思いましたよ。
確かに「アートへの扉はだれにでも開かれているのです」というメッセージが、物語の端々から伝わってきますね。