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【No.153】怒涛のリーガル・サスペンス “御子柴シリーズ第四弾”『悪徳の輪舞曲』 中山 七里(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『悪徳の輪舞曲』中山 七里(著)

『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂曲』に続く、第四作目。

前作で少年院時代の恩師の弁護を担当した御子柴。

今作の依頼人は御子柴の実の妹!?

より一層御子柴の内面に踏み込んでゆく今回の裁判にも目が離せません!

久しぶりに実の家族との再会を果たした、御子柴の反応は・・・!?

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本の概要(あらすじ)

「わたしの母親だったら、人を殺したって不思議じゃない」

 

勝つためには手段を選ばず高額な報酬を要求することで有名な、悪辣弁護士・御子柴礼司。

 

彼の前に突如現れたのは、実の妹である梓。

 

三十年ぶりの再会となったが、梓が御子柴に会いにきた理由は、なんと旦那殺しの容疑で逮捕された母親の弁護依頼。

 

あの<死体配達人>が母親の弁護を担当すると聞き、激震が走る法曹界。

 

御子柴の母親は無実なのか?それとも“殺人の系譜”は存在するのかーー?

3つの特徴

実の家族

医療少年院時代の恩師である稲見の弁護を担当した前作『恩讐の鎮魂曲』。

なんとしても恩師を救いたい御子柴の想いと、罰を与えられることを望む稲見の想いがぶつかる熱い回でした。

恩師が出てきたということは、次に登場するのは・・・・?

と、今作は読者が予想していた通りの展開になりましたね。

次から次へと御子柴の心を揺さぶる人物たちの登場で、著者は本当に御子柴に容赦無いなと思わず苦笑してしまいました。

前作ではあの冷静沈着な御子柴の人間らしい面を見ることができましたが、今作ではより一層彼の内面に踏み込んだ内容になっています。

 

シリーズ一作目の記事はこちら↓

【No.148】悪辣弁護士による怒涛のリーガル・サスペンス!“御子柴シリーズ第一弾”『贖罪の奏鳴曲』 中山 七里(著)

シリーズ二作目の記事はこちら↓

【No.150】怒涛のリーガル・サスペンス “御子柴シリーズ第二弾”『追憶の夜想曲』 中山 七里(著)

シリーズ三作目の記事はこちら↓

【No.151】怒涛のリーガル・サスペンス “御子柴シリーズ第三弾” 『恩讐の鎮魂曲』 中山 七里(著)

再会と当惑

今作で御子柴に弁護を依頼しに来たのは、なんと実の妹である梓。

御子柴が医療少年院に入院してからおよそ三十年間、一度も会っていなかった三歳違いの妹です。

“感動の再会”になるはずもなく、のっけから御子柴に対する嫌悪感を隠さない梓。

おそらく一生会いたくなかったであろう実の兄に会いにきた理由は「母親の弁護依頼」

旦那殺しの容疑で逮捕された母の無実を証明してほしいというのだ。

家族に対しても飄々と弁護士費用を要求する姿には「さすが御子柴、ぶれないな」と感心しましたが、どうやら内心ではかなり動揺している様子。

実の妹が予期せぬ形で現れたこと、実の母親に殺人容疑がかかっていること。そして、その弁護を依頼されたこと。

これまで<家族>というものに対して何の思い入れもなかったはずの御子柴が、突如現れた家族に当惑し、二の足を踏んでいるのです。

しかし結局は稲見教官に背中を押される形で、母親の弁護を決めた御子柴。

母子の情などではなく、あくまで弁護士と依頼人というスタンスを崩さない御子柴ですが、果たして弁護の行方はーー?

御子柴が静かに動揺する様子が新鮮でした!

加害者家族

御子柴がかつてないほど当惑している姿や裁判の行方など、色々と見応えの多い本作でしたが、一番のテーマはやはり「加害者家族」だと思います。

御子柴が医療少年院に入院して以降およそ三十年間、母親の郁美が、妹の梓が、どんな風に生きてきたのか。

それを御子柴は、母親の弁護を進めていく過程で嫌と言うほど思い知ることになります。

読んでいるこちらが目を伏せたくなるほど徹底して描かれている、加害者家族に待ち受ける現実。

フィクションでありながらもそれはとてもリアルで、著者自身が現実社会で感じていることも反映されているのかもしれませんね。

今回の裁判での一番の切り札は「御子柴と母親の関係」です。

これを明らかにすることで考えられる世間の反応は2つ。

一つは「あの<死体配達人>の親なら人を殺していてもおかしくない」という反応。

そしてもう一つは「犯罪者だった息子が更生して弁護士になり、母親を全力で救おうとしている」という反応。

つまりは真逆の捉え方をされる可能性があるということです。

御子柴にとっては前者が、検察側にとっては後者が不利な状況に陥る可能性があります。

どのタイミングでどちらがこの爆弾を投下するのか。

読者にとっても非常にスリルのある展開が待ち受けています。

今回も外連味あふれる鮮やかな法廷劇は爽快!

本の感想

どこか人間味に欠ける御子柴の感情的な部分を引き出した前作。

 

恩師である稲見教官は御子柴にとって“父親”のような存在でしたが、今作で登場するのは血の繋がった家族。

 

本作はいつもの鮮やかな法廷劇もさることながら、「家族小説」の側面も強い内容となっています。

 

<家族>に対して何の感傷も持ち合わせていなかったはずの御子柴でしたが、突然の再会にはさすがに彼も当惑した様子。

 

「冷徹」という御子柴の最大の武器が揺るがされ、熱くなったり冷めたりを繰り返す姿は、前作以上に彼に人間味を与えていました。

 

御子柴に対してきつくあたる妹の梓は苦手でしたが、加害者家族としては当然の反応なんですよね。

 

ついつい御子柴に肩入れしてしまいますが、それはフィクションだからこそ。

 

母親の調査を進めていく過程で、この三十年間、家族がどんな風に生きてきたのかを御子柴は思いがけず知ることとなりました。

 

最後に母親から明かされた真実には、流石の御子柴も動揺を隠せず。

 

最後に御子柴がつぶやいたのは到底彼らしくもない言葉だったため、こちらも動揺してしまいました。

 

このシリーズで初めて出た、御子柴の<本心>だったのではないかと思います。

 

最新作『復讐の協奏曲』は私が地味に気になっていた事務員の洋子さんがメインの回のようなので、そちらも楽しみです!

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印象に残った言葉(名言)

「馬には乗ってみよ人には添うてみよ。そういう諺もある。なまじ頭のいいヤツは考え過ぎると視野狭窄に陥りやすい。そして視野狭窄の末路は世間知らずの自己満足だけだ」

 

「彼の中に流れている血は、果たして赤いのだろうか」

 

「人間は嘘を吐く。追い詰められた人間なら尚更だ」

 

「何事も非難する輩だけではない。道理の分かった者もいる。ただ道理の分かった者は大声をあげることがないので目立たないだけだ」

 

「カネではない。モノでもない。犯罪の被害者遺族が心の底から満足できるもの。そして加害者が示せる本当の贖罪は何なのか」

 

「皆、自分は裁かれないという自信があるのですよ」

 

「何しろ自分は善人で、正義だと信じ切っています。正義が裁かれるはずはないから、安心して罪人を叩く」

 

「およそこの世に、人が口にする正義ほど胡散臭いものはありませんよ」

 

「人間というのは見たいものしか見ようとしないし、聞きたいと思うことしか聞こうとしない。記憶もそうでしてね。こうあってほしい、こうでなきゃ駄目だというかたちに変えてしまうんですよ」

 

「法律によって刑の執行を免れた者には、法以外の裁きと責めが待ち受けていることを知らない。いや、知ろうとしない。知れば加害者に対する憎悪が減じるのを、本能的に察しているからだ」

 

「所詮人間というのは自分の知識の範囲でしかものを考えられません」

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
文章
(5.0)
ミステリー
(4.0)
構成
(5.0)
総合評価
(4.5)

 

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