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『血の記憶』麻野涼(著)
数々の社会派ミステリーを手がけてきた麻野涼さんの作品。
著書の一つである『死の臓器』は、2015年にドラマ化もされています。
今作は“外国人労働者”をテーマに描かれた、重厚感あるミステリー小説です。
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本の概要(あらすじ)
「どんな結果になろうとも、私が後悔するということはない」
浜松市内のスーパーで起きた、拉致監禁事件。
被害者は、大企業「生田目メガテクノ」社長の娘・拝島紗香とその息子・勇。
さらには駐車場の警備員2人も一緒に監禁されているようだ。
その頃、事件の報道を目にしたタレントのSUMIREは、とある目的のために1人の男を訪ねていた。
しかし、訪ねた先で発見したのは、左手が切り落とされた腐乱死体。
同時期に起きた、監禁事件と殺人事件。
2つの奇妙な事件は無関係なのか?それともーー?
3つの特徴
物語の構成
本作は、別の場所で起きる2つの事件が並行して進んでいく構成です。
最初の方は繋がりが全く見えないため、どう展開していくのだろう?とあれこれ想像しながら読みました。
2つの事件の概要を簡単にまとめると、こんな感じです。
<拉致監禁事件>
浜松市内の駐車場で起きた、拉致監禁事件。
被害者は大企業「生田目メガテクノ」創立者の娘と孫。
そしてスーパーの駐車場警備員2人だ。
どうやら犯人の要求は、身代金ではなく怨恨の様子。
創立者である生田目豪に“左手首を切り落とす”ことを要求してきた犯人だが、本当の目的は他にあるようでーー?
<腐乱死体事件>
スーパーでの拉致監禁事件の報道を目にした、タレントのSUMIRE。
そこで映し出されたある映像に衝撃を受けた彼女は、知人を連れて「武政産業」へと向かった。
しかしそこで発見したのは、左手首が切り落とされた腐乱死体。
世間では「猟奇殺人」として騒がれているが、彼女は何故事件現場に足を踏み入れたのか。
記者会見で彼女が語った、意外な目的とはーー?
社会派ミステリー
著者は社会派ミステリーを中心に手がけているようですが、本書もそのひとつ。
テーマは「外国人労働者問題」です。
最近、昔よりも海外の方を見かける機会が多くなっていませんか?
観光で来た方ではなく、おそらく日本で働いて暮らしているのだろうなという方たちです。
私はここ何年かで目にする機会がとても増えたなという印象があります。
様々な事情や思いを抱えて日本に来ているのだと思いますが、彼らにとって日本での生活がどうなのかというのは実際のところわかりません。
母国よりも賃金が高くて生活に余裕ができたのか、それとも低賃金で働かされたり不当な扱いを受けたりしているのか。
近年では外国人人材の受け入れを積極的に行なっている日本ですが、法の整備だけでは解決できない根深い問題がそこには存在しているのだと、本書を読んで改めて思いました。
この作品に登場する「生田目メガテクノ」の社長は本当に極悪非道な奴で許せませんが、現実にもこんな人間がいるのかと思うとゾッとします。
勧善懲悪
つまり本書は「虐げられてきた者たちの復讐」を描いた作品。
最終的には“悪い奴が報いを受ける”という爽快感あふれるラストなので、そこは安心して読めます。
ただ、現実はこう上手くいく問題ではないと思うので、難しいところですね。
後味の悪いラストが苦手な方、もやもやとした気分で終わりたくない方にもおすすめです。
本の感想
初めて読んだ麻野涼さんの小説。
昭和な香り漂う雰囲気だったので昔の作品かと思っていましたが、2020年出版のようです。
“社会派ミステリー”というと暗く重たい内容をイメージしてしまいますが、
重厚感のある内容ながらも後味の悪い終わり方ではないので読後感も悪くありません。
構成にもこだわりがあり、2つの事件に何らかの繋がりはあるのだろうなと察しつつも最初は関連性を見出せませんでした。
推理小説としても楽しめるのではないかと思います。
全体的にテンポよく進んでいくので、最後までヤキモキせずに読むことができました。
この作品で取り上げている外国人労働者の問題は、現在の日本にとっても深刻な社会問題だと思うので、多くの人の目に止まって欲しい一冊です。
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