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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『ぼくのメジャースプーン』辻村深月(著)
わたしがはじめて読んだ辻村さんの小説です。
いろんな大事なことを考えさせられる作品なので、たくさんの人に読んで欲しい小説だなと思いました。
本の概要(あらすじ)
「この力で、人を助けることもできますか」
ある日、ぼくの通う小学校で起きた、どうしようもなく陰惨な事件。
幼なじみの女の子、ふみちゃんはその事件のショックで心を閉ざしてしまった。
ふみちゃんのために、ぼくだけができること。
チャンスはたった一度だけ。
これは、不思議な力をもつ少年の、悪意との闘いの物語ーー
登場人物
- ぼく:主人公。小学四年生。ある特殊な力を持っている。
- ふみちゃん:ぼくの幼なじみ。優しくて物知りな、うさぎが大好きな女の子。事件のショックで心を閉ざし、言葉を失う。
- 秋山先生:大学教授。母方の親戚にあたる人で、ぼくとおなじ能力を持っている。
- 市川雄太:二十歳。医学部の三年生。ぼくの通う小学校で、陰惨な事件を起こす。
4つの特徴
ふみちゃんとぼく
物語は、主人公の「ぼく」が幼なじみのふみちゃんについて語る場面からはじまります。
ぼくとふみちゃんは同い年で家も近所、小学校に入ってすぐに友達になりました。
ふみちゃんは幼稚園の頃からたくさんの習い事をしている(習字、生け花、ピアノ、なんと短歌まで!)賢く物知りな女の子。
明るくて話が面白くて運動神経もいい、みんなから好かれているふみちゃん。
けれどふみちゃんには特定の仲良しがいない。一人でいることが多いのに、それを気にする素振りを見せない。
ときどきグループから仲間外れにされた女の子がふみちゃんを都合よく利用するが、そんな子に対しても怒ったりせずに、笑って受け入れてあげる。
来るもの拒まず、去るもの追わず。
夏休みの自由研究、ピアノの発表会、うさぎの飼育当番。さまざまな出来事を通してふみちゃんがどんな女の子なのか、そして「ぼく」の気持ちが丁寧に描かれています。
少し早く大人になってしまったふみちゃんと、そんなふみちゃんに憧れ尊敬している「ぼく」の特別な想い。
序盤を丸々使って、ふたりの関係性を丁寧に描き出しているからこそ、これから起こる事件に読者は引き込まれます。
陰惨な事件
ある日ぼくたちを襲った陰惨な事件。
小学校で飼育していたうさぎたちが、見るも無残な姿で殺されていたのだ。
それを最初に見つけたのは、ふみちゃんでした。
大好きなうさぎの変わり果てた姿を見たふみちゃんは、心を閉ざしてしまいます。
何も話さないし、「ぼく」のことも見ない。どこか遠くへ行ってしまったふみちゃんの心。
犯人はすぐに逮捕され、「ぼく」はその犯人が市川雄太という二十歳の医大生であることを知ります。
市川雄太の罪は「器物損壊」。窓ガラスを割ったのと、同じこと。
うさぎの命を奪い、ふみちゃんの心を壊したのに、刑務所には入らない。自由を手にしたまま、何一つ失わない。
面白いから、新しいから、生きているふみちゃんとうさぎの命を、娯楽として消費する「悪の王様」
そんな市川雄太のどうしようもない悪意を知った「ぼく」は、ある決意をします。
市川雄太に会う。直接会って、二年前に二度と使わないとお母さんと約束した”不思議な力”を、使うことを。
不思議な力
一週間後に控えた市川雄太との面会。
ふみちゃんのために”不思議な力”を使うことを決意した「ぼく」は、同じ力を持つ「秋山先生」のいる大学へ通いはじめます。
「ぼく」のこの力は『条件ゲーム提示能力』といい、声を囁く相手に、ゲームを持ちかける能力。相手の潜在能力を引き出すための呪い。
市川雄太に対して、どんな罰を与えたらいいのか。彼にとって一番怖いこととは何なのか。罪の意識がない彼を、どうしたら悔い改めさせることができるのか。
刻一刻と時間が過ぎていく中で、「ぼく」は悩んで迷って苦しみ続けます。
そんな「ぼく」を見守りながらも、「自分だったらこの力を使うだろうか?」「市川雄太に相応しい罰とは?」と考えずにはいられませんでした。
もしも大切な人がどうしようもない悪意に傷つけられたとしたら、私はその犯人にどんな罰を与えたら満足できるのだろう?
『Aという条件をクリアできなければ、Bという結果が起こる』
▶︎囁かれた相手は、Bという結果への恐れから、必死になってAの条件をクリアしようとする。
「ぼく」の決断
「ぼく」が最後に出した答えについては、実際に読んでみて欲しいのでここでは明かしません。
何度読んでも「ぼく」の想像を絶する”覚悟”と、そこに隠された「ぼく」の想いに心が震えます。
なぜ「ぼく」はこんなにも苦しんでまでふみちゃんを救おうと闘い続けたのか?
そこにあるのは幼い純愛だけではないという事実こそが、この物語のいちばんの見どころだと思いました。
「せんせい、ぼくは、ふみちゃんのことが、好きなんかじゃないんです」
「馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」
本の感想
途中ページをめくる手が何度も止まりました。切なくて痛くて苦しくて。それでも泣くまいと顔を上げ、こみ上げてくる感情を必死に抑えて、またページをめくる。
いろんな感情がひしめき合って、そんな中でも思ったのは「この小説はすごい」「絶対に読んでほしい」ということ。
ここまで心揺さぶられる作品には、そうそう出会えないと思います。それくらいの衝撃でした。
だからこそ、気軽に読み返せる小説ではなく、今回再読したのも数年振りです。
何度読んでも心が震えて、全ての感情を持っていかれてしまう。
読者側でもこうなのだから、これを書いた辻村さん自身はどれほど大変だったのだろうと思わずにはいられません。
たった十歳の少年に、大人の読者を自然と感情移入させることは簡単なことではないと思います。
事件が起こるまでに「ぼく」とふみちゃんの関係性を丁寧に描いているからこそ、私たちは彼らをただの物語の中の子どもとは思えず、心が動かされるのです。
ふみちゃんがうさぎを発見する場面に胸が痛み、犯人に対して頭が沸騰するほど怒りをおぼえ、「ぼく」の想いに心が震える。
秋山先生から「力」について学ぶ場面では、著者は「ぼく」を通して読者にもさまざまなことを問いかけています。
善と悪とは?復讐とは?愛とは?人間は自分のためにしか涙を流せないのかーー?
「ぼく」が最後に出した答えと、その裏に秘めたある想いを知ったとき、きっと冷静ではいられないと思います。
まだ読んでいない人がいたら、絶対に読んでほしい一冊です。
印象に残った言葉(名言)
「ぼくはふみちゃんと仲がいいことが自慢なんだ」
「人間って、絶対に他人のために泣いたりできないんだって。誰かが死んで、それで悲しくなって泣いてても、それは結局、その人がいなくなっちゃった自分のことがかわいそうで泣いているんだって」
「先生、ふみちゃん。ぼくにだけ言えることが、できることが、今、わかった。ぼくは、条件と罰を決めた」
「ふみちゃんが悲しいことが、苦しいことが、本当に嫌だったんでしょう?それを愛と呼んで何がいけないんですか」
「『忘れなさい。そうでなければ、あなたの大事な人がずっと、あなたを心配してるように感じる』」
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