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【No.219】 閉ざされた世界で生きる家族を描いた繊細で濃密な物語『琥珀のまたたき』小川洋子(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『琥珀のまたたき』小川洋子(著)

閉ざされた世界で生きる兄弟たちを描いた、美しくも切ない物語。

以前読んだ『猫を抱いて象と泳ぐ』と少し独特な雰囲気が似ているなと感じました。

小川洋子さんの世界観が好きな方におすすめの一冊です。

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本の概要(あらすじ)

「あなたの目の中にいるのね。私たちのすぐそばに」

 

壁に閉ざされた別荘で暮らし始めた、オパール、琥珀、瑪瑙の三兄弟。

 

子どもたちを魔犬の呪いから守るため、ママは外との交流を一切禁止した。

 

たくさんの本や音楽で彩られる日々は、ささやかながらも幸福で満たされていたが……。

 

不思議な家族を描いた、美しくも残酷な物語。

2つの特徴

閉ざされた世界

世界の片隅にある、誰も知らない小さな世界。

壁に囲まれたその場所で、三人の子どもたちは静かに暮らしていました。

母親との約束は二つ。

一つめは、決して壁の外に出ないこと。

二つめは、大きな声を出さないこと。

もちろん学校には通えないし、外の人間と言葉を交わすことすらできません。

しかし、オパール・琥珀(こはく)・瑪瑙(めのう)の三兄弟は、これらの言いつけを守りながら満ち足りた生活をおくっていました。

書斎の図鑑で勉強をしたり、音の出ないオルガンで歌を歌ったり、物語を聞かせ合ったり。

そんな風に寄り添いながら生きる彼らの姿はとても微笑ましく尊くて。

狭い世界で自由に想像力を羽ばたかせながら成長していく三人でしたが、あるとき現れた外界の人間「よろずやジョー」の登場により、少しずつ綻びを見せ始めていき……。

母の愛と狂気

親から愛情を受けられない子どもや放置される子どもを描いた作品はたくさんありますが、本書はその真逆。

行きすぎた愛と執着から子どもたちを軟禁する母親が描かれています。

なぜ母親は子どもたちを外界から隔絶するのか。

それは、末娘(琥珀たちの妹)の命を奪った「魔犬」を恐れているから。

(母親は魔犬に娘が殺されたと思い込んでいる)

もう子どもを失いたくない。そんな母親の思いが狂気となって、子どもたちを軟禁するまでに至ってしまったのです。

それでも子どもたちは、そんな母親を彼らなりに愛していました。

特にこの物語の主人公である琥珀は、この閉じた世界を深く愛し、誰よりも執着しているのではないかなと。

そんな彼にとっての幸せな場所が崩壊していくさまを見届けるのは、とても切なく哀しかったです。

本の感想

彼らの世界にあるものを、なに一つとりこぼさないように。

 

そんな著者の想いが伝わってくるかのような、どこまでも繊細で濃密で美しい物語。

 

小川さんの世界観を存分に堪能できる作品でした。

 

外から見れば虐待とも思えるような特殊な設定ですが、壁の内側にいる彼らの静謐かつ幻想的な日々はあまりに美しくて。

 

たくさんの図鑑と、音の出ないオルガン。瑪瑙の歌とオパールのダンス、琥珀の左目に映る妹の姿、独自に編み出した数々の遊び……

 

閉じた世界の中でも、兄弟たちは互いに慈しみながら豊かに暮らしていきます。

 

それでも時折心をざわつかせる、不穏な影。

 

彼らが成長していくことでしだいに見え始めてくる、いくつもの綻び。

 

母親が創り上げたこの「閉ざされた世界」は、社会では決して許されないということは理解しています。

 

それでも私は、彼らの箱庭が壊れないように、消えてしまわないようにと祈らずにはいられませんでした。

 

本書は琥珀視点で描かれていましたが、一番歳上のオパール視点だときっとまた違う見え方をしたのだろうなと。

 

読了してしばらく経ちますが、いまだに彼らの美しい世界が私の中に残り続けています。

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この本の総評

読みやすさ
(4.0)
繊細
(5.0)
美しさ
(5.0)
読後感
(4.0)
総合評価
(4.5)

 

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【No.186】広大な盤上の世界に誘われる、美しくも哀しい物語〜『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子 (著)

 

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