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【No.193】生きづらさを抱える全ての人に寄り添ってくれる魔法の言葉『おまじない』西加奈子(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『おまじない』西加奈子(著)

長編小説のイメージが強い西加奈子さんですが、本書は短編小説。

「女の子」「おじさん」「おまじない」というキーワードで描かれた8つの物語が収録されています。

女の子(年齢関係なく)はもちろん、生きづらさや弱さを抱えながら生きている人に読んでほしい作品!

女の子がメインの物語ではありますが、性別関係なくおすすめの一冊!

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本の概要(あらすじ)

「言葉を燃やすことは出来ますか」

 

年齢も境遇も違う8人の“女の子”たち。

 

誰にも言えない苦しみや弱さを抱え、孤独に思い悩む彼女たちの心をそっと救いあげるのは、とある人からの何気ない一言。

 

人生の転機にそっと背中を押し、新たな世界へと踏み出す勇気をくれる魔法の言葉たち。

 

珠玉の8編と長濱ねるさんとの対談を収録した待望の文庫化!

3つの特徴

女の子が主人公の8つの物語

本書は「女の子」が主人公の8つの短編小説集。

年齢的には10代〜30代までと幅があるので「女性」と表現するべきなんでしょうけど、なぜか「女の子」という表現がしっくりくる作品。

個々に抱えている事情や悩みは違いますが「生きづらさ」「弱さ」という点で共通しています。

その点では私が著者の作品の中で一番好きな『うつくしい人』と通ずる部分もありますね。

短編ながらも著者が描きたいこと・伝えたいことは一貫していて、とてもメッセージ性の強い作品。

全ての女の子を肯定してくれるような優しい物語が詰まっています。

  • 第一話:燃やす「あなたは悪くないんです。絶対に」
  • 第二話:いちご「生き残る奴だけ生き残ればいいんじゃ」
  • 第三話:孫係「私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ」
  • 第四話:あねご「あなたがいてくれて良かった」
  • 第五話:オーロラ「オーロラはいつも生まれ続けているんだ。戻って来るのはあんただよ」
  • 第六話:マタニティ「弱い人間でも生きていけるのが社会なんじゃないですか?」
  • 第七話:ドブロブニグ「おめでとう」
  • 第八話:ドラゴン・スープレックス「お前がお前やと思うお前が、そのお前だけが、お前やねん」

私が特に印象に残っているのは「燃やす」と「孫係」と「マタニティ」。

おそらくこの3編は特に刺さる人が多いのではないかなと思いました。

みなさんはどの物語が印象に残りましたか?

キーパーソンは「おじさん」

傷つけられたり、苦しんだり、思い悩んだり。

女性であるが故の「生きづらさ」を抱える彼女たち。

そんな彼女たちを救うのは、同じ女性ではなく「おじさん」です。

しかも身近な人や特別親しい間柄というわけでもなく、言ってしまえば「ただの他人」。

用務員のおじさんだったり、遠い親戚だったり、旅先で出会った老人だったり。

そういったおじさんたちが苦しむ女の子たちに「おまじない」をくれるのです。

女の子が女の子を救うのではなく、あえて<女の子とおじさん>という取り合わせにしているのが特徴的ですよね。

おじさんたちはヒーロー的な存在として一方的に彼女たちを救うのではなく、彼らもまた彼女たちとの出会いで救われるという物語になっています。(全部ではありませんが)

そのため、女の子が主人公ではありますが男性が読んでも入り込みやすいのかなと。

性別関係なく「弱さ」を抱えて生きる人が共感しやすい内容だと思いました。

魔法の言葉

言葉の力は本当に強い。と、本書を読んで改めて実感しました。

それはいい意味だけでなく悪い意味としてもですが。

8つの物語すべてに「おまじない」となる言葉が登場しますが、結果としてどの物語も状況的には何も変わっていません。

変わったのは、主人公たちの“気持ち”だけ。

おじさんたちが実際に何かを変えてくれるわけではなく、あくまでも彼女たちが受け取ったのは「おまじない」だけなのです。

けれどその魔法の言葉によって気持ちが変化し、世界が違って見える。

そういうこともきっとあるのだなと思いました。

きっかけは何気ない一言かもしれませんが、その言葉があったからこそ生まれた「変化」。

自分を変えていくのは劇的な何かではなく、こういった気持ちの変化の積み重ねかもしれませんね。

何気ない一言が誰かの救いになることもあれば、呪いになることもある。

誰かにかけられた、もしくは自分でかけた呪いの言葉はなかったことにはできないけれど。

それを別の言葉で上書きすることはできるのではないかと思わせてくれる作品です。

おまじないは女の子だけでなく「弱さを抱える全ての人」にとっての魔法の言葉なのだと思いました。

本の感想

西加奈子さん特有の文章やリズムは感じるものの、他の作品よりもマイルドな印象でした。

 

ただし内容自体はとても芯が強くて骨のある作品です。

 

短編にも関わらずブレがなく、著者が描きたいことがはっきりと伝わってきました。

 

嫌な部分もドロドロとした感情も綺麗じゃない言葉も、全部ひっくるめて“肯定してくれる”作品。

 

「ありのままのあなたでもいいし、役割を演じているあなたもでもいいんだよ」と、自分の中にある表と裏をどちらも否定せずに受け入れてくれるような。

 

全ての人にフラットに優しい物語たちでした。

 

私たちが今抱えている「生きづらさ」や「弱さ」は形を変えていってもなくなることはないと思うので、その都度この作品に帰ってくればいいのかなと。

 

年齢や環境が変われば、感情移入する主人公や共感する台詞も変わっていきそうですよね。

 

最後の西加奈子さんと長濱ねるさんの対談もとても素敵なので、ぜひ読んでみてください。

 

お二人の飾らない率直な気持ちが書かれていて、本編を読んだ後で読むとより一層グッときます(最初に読む人はいないとは思いますが)。

 

著者の作品が初めての方でも癖がなく読みやすいと思うので、ぜひ読んでみてください!

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印象に残った言葉(名言)

「かたちがないものは、燃やすことが出来ないんです」

 

「私が可愛いことは、悪くなかった」

 

「みんなどうしてあんなに自然に、自動的に家族の愛を信じられるんだろう。みんなそういうものだから、という押しつけがあるからそうふるまっているだけでしょ」

 

「すみれさんは、孫係。わたしは、爺係。この一ヶ月、それぞれ、係をきちんとつとめあげませんか」

 

「私たちの体のすべてが私たちの意思で動くわけではないんですよ。何か大きなものに動かされているんだ。それを社会と言うのかもしれませんがね。とにかく、ゆだねられるところはゆだねましょう。私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ」

 

「悪態をつくのは限られた人にだけ、本当に信じられる人にだけです。インターネットに書きこむなんてもっての外、それは本当に卑怯なことです。とにかく本人の目に触れる、耳に入る可能性があることは絶対にするべきではない」

 

「笑ってくれる人がひとりいるだけで救われた。ただ、「かわいそう」だとは、それだけは、絶対に思ってほしくなかった」

 

「これは、社会にそう思わされているだけなのだろうか。女性は妙齢になったら子供を欲しがるものだと、幼い頃かららゆるものにインプットされた結果なのだろうか」

 

「弱いことって、そんないけないんですか?」

 

「自分が弱い人間なんだってはっきり自覚したら、ぼく、強がってたときよりなんていうか、生きやすくなったんです。自分の弱さを認めたら、逆に強くなれたんです」

 

「私は弱い。弱い人間だ。そう言い聞かせる。自分の体に、もしかしたら未来の子どもに。曖昧な何かに。私はこんなにも、弱い。こんなにも」

 

「まじないや縁起なんてな、自分で決めるもんやねん。だってな、自分が幸せになるためのもんやろ?それに囚われるのはおかしいやんか」

 

「お前は呪われてるんと違うねん。おまじないはお前を呪ってへんねん」

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
共感
(4.0)
おまじない
(4.0)
読後感
(5.0)
総合評価
(4.5)

 

西加奈子さんの他の作品

✳︎宮崎あおいさん×向井理さん主演で映画化⬇︎

【No.57】~生き物の声が聞こえるツマと、背中に鳥を背負ったムコの、明るく切ない物語〜 『きいろいゾウ』 西 加奈子(著)

✳︎生きづらさを抱える女性が、旅先での出会いにより心の呪縛を解き放つ物語⬇︎

【No.99】あなたが誰かを美しいと思っている限り、あなたは誰かの美しい人『うつくしい人』 西 加奈子(著)

 

 

 

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