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【No.12】~個性豊かなクリエイターたちが集う、現代版トキワ壮~ 『スロウハイツの神様』 辻村 深月(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『スロウハイツの神様』辻村深月(著)

辻村深月さんは『ツナグ』『鍵のない夢を見る』などで、さまざまな賞の受賞経験のある実力派の作家さんです。

そして2018年には『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞しています。

今回の作品は上下巻に分かれた長編ですが、読みやすいので最後まで一気に読めてしまいました。

著者ならではのこだわりを感じる一冊です。
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本の概要(あらすじ)

「チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだ」

 

「スロウハイツ」という名のアパートには、それぞれに夢を持った若者たちが集まる。

 

オーナーであり脚本家の赤羽環、環の友人の漫画家の卵や画家の卵、そして人気作家チヨダ・コーキ。

 

目指す道は違えど、互いに刺激し合いながら、共同生活を送る彼ら。

 

そんな彼らの住むスロウハイツに、新たな入居者が加わって・・・。

3つの特徴

物語の設定

この物語の舞台となっているのが、現代版トキワ壮こと「スロウハイツ」です。

トキワ壮とは、手塚治を筆頭に、藤子・F・不二雄・石ノ森章太郎・赤塚不二夫など、有名な漫画家たちの住んでいた、”マンガの聖地”ともいわれるアパートです。

そんなトキワ壮をモデルに設定されたのが、スロウハイツ。

スロウハイツのオーナーである脚本家の赤羽環をはじめ、漫画家や映画監督の卵など、クリエイターたちが集う、まさに現代版トキワ壮なのです。

個性豊かなスロウハイツの住人たち

私は辻村さんの描く登場人物の中でも、とくに女性の主人公が魅力的だと思います。(今回だと赤羽環)

強くてまっすぐで、しっかり自分をもっている。でもどこか不安定で、不器用。

気性が激しく、他人にも自分にも厳しい。でもそれと同じくらい、優しい。

痛々しいほどの強い感情で、前に進み続ける。

私はそんな環みたいな子が好きだけれど、苦手に感じる読者もいるかな?とは思いました。

環の周りに集まる人間たちもまた個性豊かで、それぞれの魅力を引き立てあっています。

みんなそれぞれ苦悩を抱えていて、お互い支え合ったり喧嘩しあったり。

スロウハイツの住人たちの、”絆”みたいなものが、最後まで読んで感じられました。

<スロウハイツの住人たち>

101号室 狩野壮太 漫画家の卵

102号室 長野正義 映画監督の卵

103号室 森永すみれ 画家の卵

201号室 円屋伸一 環の高校からの親友 ⇔ 加々美莉々亜 チヨダ・コーキのファン

202号室 チヨダ・コーキ 若者に絶大な人気を誇る小説家

203号室 黒木智志 チヨダ・コーキの敏腕編集者

3階   赤羽環 スロウハイツのオーナー / 売れっ子脚本家

上⇒下巻の見事な伏線の回収

上巻はおもに、スロウハイツに住む住人たちの人物紹介。

下巻でやっと、徐々に物語が展開していく。

そんな構成です。

各章ごとに人物の視点が入れ代わっていくため、他の住人たちのことをどう見ているのか、そしてそれぞれとの距離感を知ることができます。

ひとつの物語をさまざまな角度からみることができるのは、この作品の良さでもあるなと思います。

そしてすごいのが、下巻です。

正直、ミステリー要素に関しては早いうちに答えが想像できてしまいましたが、伏線に関してはそれが伏線だとは全く気づいていないものもあったので、舌を巻きました。

辻村さんの伏線の回収は、ほんとうに丁寧です。

本の感想

今回の作品は上下巻でボリュームがありますが、最後まで疲れることなくすらすらと読めました。

 

登場人物たちの心理描写がとてもまっすぐで熱をもっていて、著者の彼らへの思い入れを感じます。

 

ただ、読者によっては上巻を読んでつまらないと思う人もいるかもしれないな、と思いました。

 

わたしの知人も、「上巻は人物紹介が長くて進まないのがおもしろくない」と言っていたので。

 

でも「下巻の中盤からだんだんおもしろくなってきた」とも言っていたので、上巻でいまひとつと思った人は、なんとかこらえて下巻まで読んでほしい!です。

 

辻村さんの作品は、ある作品の登場人物が、他の作品でもさりげなく登場したりするので、そこに気づくと「また会えた!」と嬉しい気持ちになります。

 

『スロウハイツの神様』にも、ある作品の人物が登場するので、ぜひ探してみてください。

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印象に残った言葉(名言)

「恋っていうのは、故意に作りだす盲目のことだよね」

 

「人を傷つけず、闇も覗き込まずに、相手を感動させ、心を揺さぶることは、きっとできる。そうやって生きていこう。自分の信じる、優しい世界を完成させよう」

 

「図書館が、全ての楽しみで、全ての心の拠り所だった」

 

「今日まで、支えがなければとても生きてこられなかった。そんなものが支えだなんて、それをどうかと思う人もいるだろう。けれど、それがあることがどれだけ幸せなことかを、環は知っている」

 

「その時期を抜ければ、それに頼らないでも自分自身の恋や、家族や、人生の楽しみが見つかって生きていける。それまでの繋ぎの、現実逃避の文学だと言われても、それで構いません。自分の仕事に誇りを持っています。だから逃げません」

辻村深月さんの他の作品

【No.65】〜大切な幼なじみの女の子を救うために闘うぼくの物語〜 『ぼくのメジャースプーン』辻村 深月(著) 【No.73】〜ホラーとミステリーが融合したちょっと怖い5つの物語〜 『ふちなしのかがみ』辻村深月(著)

この本の総評

読みやすさ
(4.0)
キャラクター
(4.0)
ミステリー
(3.0)
おもしろさ
(4.0)
総合評価
(4.0)

 

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