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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『ホリー・ガーデン』江國香織(著)
昔から江國香織さんの小説が大好きでたくさん読んできましたが、その中でも特にお気に入りの一冊。
学生の時に出会って以来、何度も何度も繰り返し読んできました。これまでの人生で一番読んだ回数の多い本です。
これだけ好きなのに、どこが好きなのかをうまく言葉で表せない不思議な小説。
全体的にはなんてことはない日常を淡々と綴った、けれど妙に雰囲気のある物語。
ちょっと変わった人たちをまるっと肯定して包み込んでしまう、江國さんらしい小説です。
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本の概要(あらすじ)
「つまづく石でもあれば私はそこでころびたい」
小学生の頃からいつも一緒だった、果歩と静枝。
静枝はすべて知っている。果歩が初めて吸った煙草も、初めて飲んだお酒も、初めて寝た男も。
そして、あの最低の失恋をした時も、静枝はそばにいた。ほんとうに、いつも隣にいた。
いつまでも過去に囚われ続ける果歩を心配する静枝と、静枝の不倫に釈然としない果歩。
果歩を慕う中野くんが加わったことにより、徐々に変化していくふたりの関係。
彼らの想いが行き着く先はーー?
3つの特徴
穏やかな不幸
果歩と静枝の友情を描いた物語でもあり、登場人物たちのさまざまな愛を描いた物語でもあり。
この物語にそこはかとなく漂うのは、穏やかな不幸。
日常のなんてことない淡々とした風景も。
一見幸せそうに見える瞬間でさえ、不幸の影が消えません。
彼らがとらわれているのは、「記憶」ではなく「時間」。
いつまでも過去の時間の中で生きる果歩を、現実の世界へと連れ出したい中野くんと静枝。
「自分が現在の中に生きていると思うなんて幻想よ」
果歩もそうですが、『落下する夕方の』梨果や『神様のボート』の葉子など、江國さんの描く愛情は静かな狂気に満ちています。
描かれているのは、現在進行形ではなく“過去の恋”。
江國さんの描く、型にはまらない愛のかたちがとても好きです。
名前をつけることのできない彼らの感情を、丁寧に繊細に描き出していて。
「普通」とか「一般的」とか「常識」とか、そんな価値観で縛りつけない世界がとても心地よいです。
好きな台詞
私がいちばん好きな登場人物は、主人公の果歩。
彼女をよく思わない人もいそうですが、私は果歩のなんとも言えない危うさやマイペースさ、独特の感性にとても魅力を感じます。
果歩自身も好きですが、彼女の言う台詞も大好きでいくつも印象に残っています。
いちばん好きなのがこの台詞。
「私が何のためにいつもきれいにマニキュアをしているかわかる?そうしないと、自分が大人だっていうことを忘れちゃうからよ」
次の台詞も果歩っぽくて好きです。エプロンを見ると、ときどきこの果歩の台詞を思い出します。
私、エプロンをつける女って大嫌い。裸で町を歩けっていわれたら喜んでやってみせるけど、エプロンをして歩けっていわれたら、恥ずかしくてきっと舌をかんじゃうわーー。
甘いものを決して食べない果歩に(彼女は過去の失恋で「スイート・ホリック」になって以来、乳製品以外の甘いものを一切断っている)「ダイエット中なんですか」と中野が聞いて機嫌をそこねたシーンも。
「私はダイエットなんてするくらいなら、小錦みたいに太ってる方がずっとましだと思ってるのよ」
印象に残る詩
作中に終始散りばめられている、果歩の独特の口癖。
「おゝ、これは砂糖のかたまりがぬるま湯の中で溶けるやうに涙ぐましい」
「左側を通って下さい。左側を通らない人にはチョウクでしるしをつけます」
「私は歩いてゐる自分の足の小さすぎるのに気がついた。電車くらいの大きさがなければ醜いのであつた」
「これはーーカステーラのように明るい夜だ」
これらは、昭和のはじめ頃の詩人・尾形亀之助さんの詩を引用したもの。
初めて読んだ時から妙に印象に残る詩だなと気になっていて、何度も読むうちに私も暗唱できるようになってしまいました。
果歩同様、江國さん自身もこの人の詩が大好きだそうです。
今回改めて他の詩も読んでみようと、青空文庫で『雨になる朝』と『色ガラスの街』を購入。
果歩がオーデコロンエルメス(女友達)に暗唱してみせた、「一日」という詩は『色ガラスの街』に載っていました。
私のお気に入りは「昼の部屋」という詩。
教科書以外で詩を読むことはありませんでしたが、どことなくユーモアを感じさせるこの人の詩は、なんだかとても好きです。
本の感想
記念すべき100冊目の記事ということで、私が愛してやまない江國香織さんの『ホリー・ガーデン』 を選びました。
何度読んでも「やっぱり好きだなぁ」としみじみ思います。
果歩の住む下北沢のマンションや、静枝と待ち合わせする千駄ヶ谷のユーハイム、大雄山へのひとりピクニック・・・
もはや本を開かずとも、物語のあらゆる情景を思い浮かべることができます。
江國さんの手にかかると、なんてことない日常やありふれたものも美しく印象的に映るのです。
さらっと描かれているのに、やたら心惹かれるアイテムたちも魅力のひとつですよね。
あとがきにも書かれているように、これは果歩と静枝と彼らをめぐる人々の、日々の余分な物語。
「余分な時間ほど美しい時間はないと思っています」という江國さんの言葉が印象的でした。
ロボットとれんげ畑がでてくる絵本の話、小さい頃静枝としたお姫様ごっこ、果歩の姪が眼鏡をかけたくて目が悪くなったと嘘をつく話・・・
こういう「余分な」エピソードがいくつも積み重ねられた物語は、そのひとつひとつがやたら心に残ります。
万人受けするとは思いませんが、江國さんの作風が好きな方は間違いなく好きなはず。
気になった方は、ぜひ読んでみて下さい。
印象に残った言葉(名言)
「私ね、紅茶茶碗は持たない主義だから」
「どんなに前から約束していても、女友達というのはキャンセルの多い人種である」
「不倫なんて卑怯だわ。最低よ。何も背負わずに甘いところだけ欲しいなんて」
「子供の頃、大人はみんな、もっと人格者だと思っていた」
「大事なのは何も考えないこと。穏やかに暮らすための、それがこつなのだ」
「不健全。そうだ、ほんとうに世の中は不健全だ」
「憂鬱から逃げるすべなどないことに、もしもまだ気がつかないのだとしたら私はばかだ、と思う」
「晴天というのはどちらかというと不幸に似ている、と思った。それも、恒常化してしまった穏やかな不幸に」
「自分が不幸なときに相手も不幸だと元気がでてしまうのはどうしてだろう。相手の幸福を心底ーー自分のよりもずっとーー願っているというのに」
「詩は普通の会話より簡単だもの」
「果歩はときどき、女を傷つけることができるのは女だけなのだと思うことがある」
「でも、精神的なお友だちがあんなにいるなんて、すごおく淫らだと思う。信じられないくらいよ。それに比べたら、寝ることなんて全然なんでもないと思う」
江國香織さんの他の作品
【No.8】静かな狂気と、果てない旅の物語『神様のボート』江國香織(著) 【No.42】風変わりでいとおしい家族の物語『流しのしたの骨』江國香織(著) 【No.50】少女と大人のあいだで揺れる女子高生の孤独と幸福を描いた物語『いつか記憶からこぼれおちるとしても』江國香織(著) 【No.72】風変わりな一族を描いた、愛と秘密にあふれる物語『抱擁、あるいはライスには塩を』江國香織(著) 【No.58】奇妙な三角関係を描いた、すれちがう魂の物語『落下する夕方』 江國香織(著)この本の総評