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【No.210】緻密かつ大胆な傑作長編ミステリ!『ハサミ男』殊能将之(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『ハサミ男』殊能将之(著)

“男”繋がりということで(前回が『七回死んだ男』だったので)、次はこちらの名作を。

グロテスクなのかと勝手に思っていましたが、意外とそんなことはなかったです。

(多少の痛々しい描写はありますが)

ネタバレはしませんが、未読の方は事前情報を入れずに読むことを強くお勧めします。

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本の概要(あらすじ)

「チョキ、チョキ、チョキとハサミ男が行く」

 

美少女ばかりを殺害する連続殺人鬼、通称“ハサミ男”。

 

三人目のターゲットを決め、綿密に少女の身辺を調べ上げながら、決行の時を待っていた。

 

しかし、ハサミ男は少女を殺害できなかった。

 

なぜなら、自分になりすました何者かによって既に殺害されていたからだ。

 

一体誰が、何のために?

 

獲物を横取りされたハサミ男は、独自に調査を開始するがーー?

3つの特徴

緻密な構成

世間を震撼させた連続殺人鬼「ハサミ男」。

物語は主人公であるハサミ男が、第三の犠牲者に目をつけるところから始まります。

一切手を抜かず、綿密に、執拗に少女の身辺調査を行う主人公。

焦らず、じっくりと。虎視眈々と刃を研ぎながら、その時を待ちます。

そしてついに決行の日。

主人公は、自分の目を疑うような衝撃的な場面に遭遇します。

目の前にあるのは、自分がまさに今日殺そうとしていた少女の死体。

しかも少女の首には見慣れたハサミが。

そう、ハサミ男は自分のなりすましに獲物を奪われてしまったのです。

なぜ彼女を狙ったのか。なぜハサミ男を装ったのか。

偽ハサミ男の正体を暴くため、独自に調査を開始する主人公。

一方で警察は、犯行の手口から容疑者を「ハサミ男」として捜査を開始します。

警察はハサミ男を追い、ハサミ男は偽ハサミ男を追う、という三つ巴の状態で絡み合う物語。

ハサミ男が“第一発見者”というのもポイントですね。

ハサミ男と警察の接点ができることで、より緊張感のある展開を味わうことができます。

ボリュームはありますが、読み始めたらあっという間です!

倒叙ミステリ

倒叙ミステリとはつまり、“犯人側の視点で描かれる推理小説”のこと。

有名どころでいうと東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』や貴志祐介さんの『青の炎』でしょうか。

ドラマ化された相沢沙呼さん原作の『invert 城塚翡翠倒叙集』もそうですね。

通常のミステリは犯人やトリックを解明することが目的なので、倒叙ミステリはその真逆というわけです。

追い詰める側ではなく追い詰められる側の視点で描かれるので、よりスリリングな緊張感を味わえるのが特徴。

通常のミステリよりも犯人の動機や心理描写を濃密に感じられるところが魅力ですよね。

ただし本書に関しては倒叙形式に“あるトリック”が使われているのが重要なポイントです。

これ以上は秘密……!

ゾワっとするラスト

最後はゾワゾワっとする私の好きな終わり方でした。

その先を知りたくなるような余韻がたまらない。

続編がないのがとても残念です。

ちなみに本書は最後まで読むともう一度最初から読みたくなる作品。

一度と言わずぜひ二度三度と読んでみてください。

おそらく一度目とは全然違う視点で楽しめると思いますよ!

ハサミ男はこれからも虎視眈々と美少女を狙い、刃を研ぎ続けるのでしょう……

本の感想

森博嗣さんが『すべてがFになる』で初代に輝いた、あのメフィスト賞を受賞している作品。

 

シリアルキラーが自分の獲物を奪った真犯人を追う、という設定がそもそも面白いなと思いました。

 

最後はちょっと痛々しいものの、『殺戮にいたる病』みたいなグロさはないのでご安心を。

 

(全く血が流れないとは言いませんが)

 

サイコサスペンス要素もある作品ですが、常に淡々とした口調がより不気味な空気感を倍増させていました。

 

ハサミ男の視点で描かれているにも関わらず、人間味があまり感じられないのが恐ろしい。

 

本書は「やられた!」となった方と、早い段階で察してしまった方と、違和感に気づきつつも騙された方に分かれるのではないかと思います。

 

私はいくつかの違和感をスルーしまくって、見事に騙されたパターンでした笑。

 

事前情報を全く入れずに読んだのも功を奏したのかもしれません。

 

(ちなみに偽ハサミ男の正体は勘づいてしまいました)

 

本書はきれいに騙された方がより楽しめそうな作品なので、未読の方はくれぐれもネタバレを見ないようご注意を。

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印象に残った言葉(名言)

「あらゆる死は自殺である」

 

「勘や経験は大事だ。でもな、それだけじゃ真実はつかめない。もっと大事なのは事実だよ。勘や経験は、いかにすばやく事実をつかむかという道案内の役目しかしてくれない。だから、おまえも修行なんかする必要はないのさ」

 

「おまえに求められてるのは、俺と同じ直感を身につけることじゃない。おまえ自身の物の見方を貫くことだよ」

 

「人々は納得したいんですよ。なんの意味もなく、人を殺す人間がいるとは思いたくない。そういう人間を目のあたりにしても、なんらかの意味や理由を見出したい。だから、無動機殺人者の心理を知りたがる」

 

「何かを禁じる観念なんてものは、ごく簡単に反転し、人を倒錯した喜びに導いてしまう。タブーを犯しているからこそ楽しく、逸脱しているからこそうれしく、狂っているから自分はなにか他人より特別な存在だと思い込む」

 

「なぜ人を殺してはいけないのか?それは、人が死ぬところを見るのが不愉快だからさ」

 

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
設定
(5.0)
トリック
(4.0)
読後感
(5.0)
総合評価
(5.0)

 

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