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【No.204】幼い嘘と過ちが連鎖する切ない物語『球体の蛇』道尾秀介 (著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『球体の蛇』道尾秀介(著)

これまで読んだ作品とは少し違う趣を感じた物語。

ひとりの女性に執着する青年の苦悩や後悔が、誠実なまでに描かれている作品でした。

とても哀しくて恐ろしいけれど、どこか美しさすら感じられる一冊。

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本の概要(あらすじ)

「何かをわざと忘れるほど難しいことはない」

 

幼なじみ・サヨの死の秘密を抱える17歳の私は、ある日ひとりの女性と出会った。

 

白いワンピースに身を包んだ、どこかサヨに似ているその女性。

 

想いを募らせた私は、彼女が過ごす床下に忍び込むという悪癖を繰り返すようになってしまう。

 

ところがある夜、私の運命を大きく変える出来事が起こってしまいーー。

3つの特徴

運命的な出会い

主人公は十七歳の高校生・友彦。

彼は家庭の事情から隣人の橋塚家に居候しており、家主である乙太郎とその娘のナオと一緒に暮らしている。

乙太郎の仕事は白蟻の駆除。友彦も土日だけその仕事を手伝っていた。

ある日、白蟻の駆除に訪れた屋敷で運命的な出会いを果たした友彦。

前から時々町で見かけて気になっていた、白いワンピースの女性だ。

屋敷の住人のもとに通っているらしいが、初老の男と彼女は一体どういう関係なのか。

彼女への想いを抑えきれなくなった友彦は、深夜に屋敷の床下に忍び込むという悪癖を繰り返すようになった。

そんなあるとき、彼は重大な事態に遭遇してしまいーー。

と、ここまでが第一章の大まかなあらすじです。

物語は全部で三章にわかれていて、章をまたぐほどに見える風景が変化していきます。

物語が大きく展開していくというよりは、あくまでも主人公である友彦の心象に焦点を当てている印象。

幼少期のある出来事で後悔を抱える友彦の内面が、女性との出会いを機に変化していく物語です。

主人公の心象風景の変化に着目して読んでみてください!

明かされない真実

登場人物たちがみな忘れられずにいるサヨの死。

物語が進むほどにいくつかの事実が浮かび上がってきます。

サヨの死の真相について。

どれが嘘でどれが真実なのか。

その答えは最後まで明かされません。

ミステリーとして読むとモヤモヤが残るかもしれませんが、私はある意味リアルだなと感じました。

現実世界では、ある出来事に対して“真実”が明らかになることは少ないような気がするので。

登場人物たちが語る“事実”はその人が信じる“真実”なのかもしれませんが、本当のところは誰にもわかりませんよね。

この物語の真実を知る唯一の人間は、あの日のサヨだけなのかもしれません。

真相がどうであったとしても、全員が救われることはないという事実が残酷で切ない……。

著者の作品を読むと、結局人は「自分だけの物語」を生きるしかないのだなと痛感させられます。

タイトルの意味

『球体の蛇』というタイトルと、最初のページに書かれている『星の王子さま』の一節。

ぼくは、鼻たかだかと、その絵をおとなの人たちに見せて、<これ、こわくない?>とききました。

すると、おとなの人たちは<ぼうしが、なんでこわいものか>といいました。

ぼくのかいたのは、ぼうしではありません。ゾウをこなしているウワバミの絵でした。

最初はどういうことなのかな?と不思議に思っていましたが、物語を最後まで読むとしっくりきました。

私なりの解釈ですが『球体の蛇』というのはつまり、大きくて丸い嘘を飲み込んだ蛇のことではないかなと。

ゾウを丸ごと呑み込んだウワバミ(蛇)のように、外からは決して何を飲み込んでいるのかはわからない。

呑み込んだ蛇は苦しみながらもそれを吐き出そうとはせず、ただじっと耐えている。

ここでいう“蛇”というのはつまり“人間”のことを指しているのかなと思いました。

作中で印象的だった「スノードーム」は、同じものを見ても人によって感じることは違うということ。

そして「球体の蛇」は、結局のところ真実は誰にもわからないことを表しているのかなと。

みなさんはどういう解釈をしましたか?

本の感想

それまで見ていた風景が一瞬にしてひっくり返される。

 

というのがこれまで読んできた道尾秀介さんの作品に共通する特徴でした。

 

しかし今回読んだ作品はどうやら少し様子が違う模様。

 

最後の最後に重大な秘密を明かし、読者を効果的に驚かせるという手法は今回使われていませんでした。

 

そういう意味でも、ミステリー感はやや控えめ。

 

伏線を拾い集めて謎解きを楽しむタイプではなく、読めば読むほどわからなくなっていくミステリーという感じでした。

 

ただ、ミステリー感は控えめでも“ミステリアス”な雰囲気は物語全体に漂っています。

 

現在の話ではなく、主人公の思い出を軸に回想形式で描かれているから余計にそう感じるのかなと。

 

人生における過ちや後悔を残酷なほど直視した物語ですが、最後はわずかながらも救いととれるような場面も。

 

解釈は人によって異なると思いますが、切ない読後感を残す印象的なラストでした。

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印象に残った言葉(名言)

「同情が一種の快感なのは、責任が伴わないからだ」

 

「何かについて、人が最悪の想像をするとき、それはたいてい当たらない。最悪の結果が待っているのは、それを想像していなかったときに限られている」

 

「思い出は引き潮のように、足の裏の砂を崩しながら遠ざかっていた。崩された砂の一粒一粒は、たぶん希望や、夢や、信頼だった」

 

「人間はみんな、ただこの世に生まれただけじゃ駄目なんだ。存在できただけじゃ駄目なんだ。人生のどっかで、生きるために生まれ直さなきゃいけない。俺いつも、そう思ってる。絶対そう思ってるよ」

 

「無根拠だといえばそれまでだが、信頼なんて、きっとすべて無根拠なのだ。それだからこそ、裏切られてしまったとき、相手への怨みと同じくらい、自分が厭になるのだろう」

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
雰囲気
(4.0)
個性
(4.0)
読後感
(4.0)
総合評価
(4.0)

 

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