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【No.186】広大な盤上の世界に誘われる、美しくも哀しい物語〜『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子 (著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(著)

「チェス」を題材に描かれた小川洋子さんの長編小説。

静謐で優しくてどこか奇妙な世界に引き込まれてしまう作品です。

チェスが好きな方はもちろん、そうではない方もぜひこの世界観を堪能してください。

小さくて慎ましいながらも、とても奥深くて美しい作品!

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本の概要(あらすじ)

「大きくなること、それは悲劇である」

 

産まれたとき、その少年の唇はかたく閉ざされていた。

 

手術で唇を開き、脛の皮膚を移植したため少年の唇には産毛が生えるようになる。

 

そのコンプレックスから少年はとても口数が少なく孤独であった。

 

しかし、ある日少年はひとりの男と出会い、チェスの才能を開花させてゆく。

 

やがて人々は少年を<盤下の詩人、リトル・アリョーヒン>と呼ぶようになった。

 

”海底チェス倶楽部”に勧誘され、からくり人形を操りチェスを指すようになった少年。

 

そこで出会った少女”ミイラ”と心を通わせてゆくがーー。

 

残酷で美しく、優しくて切ない、小川ワールド全開の傑作!

こんな人におすすめ

  • チェスに興味がある人
  • 個性的な登場人物が好きな人
  • 小川洋子さんの世界観が好きな人

 チェスに興味がある人

題材が「チェス」ということで手に取ることを躊躇される方もいるかもしれませんが、

個人的には「チェスに全く興味の欠片もない」という人以外は読み進める上で特に問題はないかと思います。

私はチェスの基本的なルールを知っているくらいですが、それでも特に読みづらいとは感じませんでした。

ただ、チェスへの興味や深い造詣があればより味わい深いことは間違いなしです。

モデルになっているのは実在したチェスプレイヤー“アレクサンダー・アリョーヒン”です。

 個性的な登場人物が好きな人

主人公は、外見的コンプレックスを抱える孤独な少年。

そんな彼がとある出会いをきっかけにチェスの才能を開花させ、狭い世界で深いものを得てゆくという物語です。

本書に登場する人たちはみんな個性豊かでとても魅力的。

少年にチェスを教えてくれたマスターをはじめ、ミイラ、祖父母、老婆令嬢、総婦長さんなどなど。

それぞれどこか風変わりながらも温かく、少年を静かに見守ってくれている彼らの存在感はとても大きかったです。

チェスがメインではありますが、これは孤独な少年が”還る場所を見つけた物語”でもあるのかなと思いました。

 小川洋子さんの世界観が好きな人

本書は小川ワールドを存分に堪能できる作品なので、著者の世界観にどっぷりと浸かりたい人におすすめです。

チェスという題材や個性豊かな登場人物が特徴的ですが、あの静謐で美しい世界観は本書でも変わらず。

ただし好みが分かれそうな気もするので、著者の作品を初めて読む方向けではないかもしれません。

小川洋子さんの作品が好きという方はぜひ読んでみてください。

読後の余韻もすごいです!!

本の感想

慎ましくて小さな、それでいてとても深い物語。

 

著者はこういう閉じた世界を描くのがほんとうに上手だなと改めて感じました。

 

”チェス=ゲーム”という認識でしたが、本書で描かれているチェスはまるで「芸術」。

 

8×8という狭い盤上の上で紡がれる世界の広大さ、奥深さに圧倒されました。

 

あまり馴染みのないテーマかもしれませんが、説明的すぎないので読みづらくはないと思います。

 

本書は完全な”三人称”で描かれているので、まるでおとぎ話を語りかけられているかのような読み心地でした。

 

家族をはじめ、少年と深く関わった人たちはみんな彼を優しく見守ってくれていて。

 

いつでも”心が還る場所”が確かに彼にはあるのだということが、とても嬉しかったです。

 

読む前は不思議なタイトルだなと思いましたが、読んでみると深く納得。

 

内容だけでなくタイトルに関しても秀逸だなと思いました。

 

一気に読むのではなく、静かな部屋で少しずつ読み進めたくなる一冊です。

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印象に残った言葉(名言)

「チェスは攻撃よりも、犠牲の形に人間が現れ出る」

 

「偶然が勝たせてくれるんじゃない、与えられた力をありのまま発揮した時に、勝てるんだ」

 

「何となく駒を動かしちゃいかん。いいか。よく考えるんだ。あきらめず、粘り強く、もう駄目だと思ったところから更に、考えて考え抜く。それが大事だ。偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめるのは負ける時だ。さあ、もう一度考え直してごらん」

 

「チェスは、人間とは何かを暗示する鏡なんだ」

 

「最強の手が最善とは限らない。チェス盤の上では、強いものより、善なるものの方が価値が高い」

 

「じゃあチェスをするっていうのは、あの星を一個一個旅して歩くようなものなのね、きっと」

 

「チェス盤は偉大よ。ただの平たい木の板に縦横選を引いただけなのに、私たちがどんな乗り物を使ってもたどり着けない宇宙を隠しているの」

 

「自分などというちっぽけなものにこだわっていては、本当のチェスは指せません」

この本の総評

読みやすさ
(4.0)
世界観
(5.0)
キャラクター
(4.0)
読後感
(5.0)
総合評価
(4.5)

 

小川洋子さんの他の作品

✳︎慎ましく生きる兄弟の一生を描いた物語⬇︎

【No.136】慎ましく生きる兄弟の一生を描いた、切なく優しい物語『ことり』 小川 洋子(著)

✳︎消失してゆく世界を描いた切なく美しい物語⬇︎

【No.147】 “コロナ禍に読みたい” あらゆるものが消滅していく島を描いた、切なく儚い物語『密やかな結晶』 小川 洋子(著)

 

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