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【No.90】誰もが知っている“素敵な道具たち”が繋ぐ、SF(少し・不思議)な物語『凍りのくじら』辻村 深月(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『凍りのくじら』辻村深月(著)

辻村さんの小説の中でも、特別な光を放っている作品。

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本の概要(あらすじ)

「あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう」

 

藤子・F・不二雄先生を尊敬し、その作品を愛した父が失踪して5年。

 

高校生の理帆子は、学校の図書室でひとりの男子生徒に声をかけられる。

 

「写真のモデルになってほしい」という、彼の突然の依頼に戸惑う理帆子。

 

しかし、どこまでもフラットな彼にだんだんと心の内を明かすようになり・・・。

 

孤独な少女を照らしたのは、あの懐かしい光だったーー

3つの特徴

少し・不思議

新進気鋭のフォトグラファーとして活躍する理帆子が、高校生のときの出来事を思い返すシーンからはじまる物語。

理帆子の父は藤子・F・不二雄先生の作品をこよなく愛していて、理帆子もまた父の影響で『ドラえもん』が大好きな女の子に育ちます。

けれど父はある日「僕のことは待っていなくていいから」と理帆子に言い残し、姿を消す。

病気の母とふたりで生活している高校生の理帆子は知的で誰とでも仲良くできるが、心はいつも『少し・不在』だ。

私の尊敬する藤子・F・不二雄先生が遺した言葉にこんなのがある。

『ぼくにとっての「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』

藤子先生のこの言葉を面白いと思った理帆子は、他人の個性に名前をつける遊びをはじめます。「スコシ・ナントカ」。

『少し・不揃い』『少し・フリー』『少し・腐敗』『少し・不幸』『少し・不完全』・・・

一歩引いたところから他人を観察し、その個性や性質をラベリングして楽しむ理帆子。

妙に達観していて現実感の薄い彼女ですが、『ドラえもん』の話をしているときはとても楽しそうで生き生きとしています。

物語の章タイトルはすべてドラえもんの道具の名前になっていて、<どこでもドア>や<カワイソメダル><もしもボックス>や<どくさいスイッチ>など、懐かしい記憶を呼び起こします。

少し・不在

自分のことを『少し・不在』だと感じている理帆子。

どんな場面でも当事者になることは決してなく、どこにいても自分の居場所だと思えない。

そんな息苦しい性質を持つ彼女は、決して本心を他人にみせずに、その場のノリに合わせた表面上だけの付き合いをしている。

冷静に他人を観察することが得意な理帆子ですが、決して器用というわけではありません。

『少し・腐敗』の元彼に対してもドライになりきれず、突き放すことも受け入れることもできないまま。

ただただ彼が堕ちていくのを静かに眺めているだけ。

結果的に彼女のその甘さが後に重大な事件を引き起こさせてしまいます。

「私は、どこにいても、そこに執着できない。誰のことも、好きじゃない。誰とも繋がれない。なのに、中途半端に人に触れたがって、だからいつも見苦しいし、息苦しい。どこの場所でも、生きていけない」

少し・フラット

七月の放課後、理帆子は物語のキーパーソンでもある<別所あきら>と出会います。

飄々としていて掴み所のない、『少し・フラット』な別所あきら。

波長が合うことを一瞬で感じ取った理帆子は、彼の前でだけは自分を偽ることなく本当の自分をさらけ出します。

初めて対等に言葉を交わせる人間。

彼との会話を通して、徐々に理帆子の抱える孤独がみえてきます。

そして、別所との出会いがさらにひとりの少年との出会いに繋がってゆき・・・。

孤独を抱える理帆子を最後に照らしたのは、あの懐かしい光だったーー

「海底でも、宇宙でも、どんな場所であっても、この光を浴びたら、そこで生きていける。息苦しさを感じることなく、そこを自分の場所として捉え、呼吸できるよ。氷の下でも、生きていける。君はもう、少し・不在なんかんじゃなくなる」

本の感想

この作品は私にとって特別な光を感じる物語。

 

辻村さんの描く女性の主人公は、作品にもよりますがいわゆる万人受けするタイプではありません。

 

スロウハイツの神様の環や、本書の理帆子のように。

 

けれど私はそんな彼女たちが大好きで、その魅力に強烈に惹かれます。

 

特に理帆子には共感してしまう部分がたくさんあって。だからこそ、彼女が最後に照らしてもらった光がこんなにも強く残るのだろうなと思いました。

 

物語全体を通して伝わる『ドラえもん』の魅力と藤子・F・不二雄先生に対する敬愛。

 

大事なことは、全部『ドラえもん』と藤子先生から教わったのだと語る父。

 

そして、その優しい世界を父から教わった娘。

 

本当の名作というのは、こんなふうにして時代を超えて受け継がれていくのだなと思いました。

 

理帆子を通して著者が語る『ドラえもん』の解釈や魅力はとても興味深くて。

 

辻村さんの「ドラえもん愛」がひしひしと伝わってきました。

 

ちなみに、辻村さんは2019年に公開された「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の脚本を担当されていましたね。

 

そしてそのノベライズも手がけられています。

 

この作品を読むとドラえもんの世界に帰りたくなるので、今度辻村さん脚本の映画を観てみようと思います。

印象に残った言葉(名言)

「小説や漫画の世界の圧倒的な残酷さに比べ、現実の痛みはどうしたって小さいことが多い。私はそこに感情移入がうまくできない」

 

「漫画や小説を読むことにしか夢中になれない。今でも私、誰といてもそこを自分の居場所だと思えない。私はどこにいてもどこか不在なんです」

 

「本当に面白い本っていうのは人の命を救うことができる。来月の新刊が楽しみだから。そんな簡単な原動力が子どもや僕らを生かす」

 

「あの子、『どくさいスイッチ』で反省できないよ」

 

「あんまり、人間の脈絡のなさを舐めない方がいい」

 

「私は『どこでもドア』なんか持ってなかったんだと思い知る。どの友達にも合わせて溶け込める。どこにでも入っていけると思っていたけど、それは間違いだった。私が持っていたのは『オールマイティーパス』に過ぎない」

 

「私はきちんとその場に存在して、そこで生きている人たちが怖い。気後している。だからそこに行けないし執着できない」

 

「僕らはラブストーリーもSFも、一番最初は全部「ドラえもん」からなんだろう。大事なことは全部そこで教わった」

 

「いつも君を思ってる。僕も汐子も、君のことが大好きだ。世界中の誰が駄目だと言っても、僕らは言い続けるよ。理帆子は、誰よりいい子だ」

 

「私は一人が怖い。誰かと生きていきたい。必要とされたいし、必要としたい」

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この本の総評

読みやすさ
(5.0)
雰囲気
(5.0)
共感
(5.0)
ドラえもん
(5.0)
総合評価
(5.0)

 

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