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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『ビオレタ』寺地はるな(著)
選考委員の満場一致で選ばれた、第四回ポプラ社小説新人賞受賞作品です。
本の概要(あらすじ)
「いつも心に棺桶を」
突然婚約者から別れを告げられた田中妙は、道端で泣き崩れていたところを、無愛想な女性に拾われた。
妙はそのまま彼女の雑貨屋「ビオレタ」で働くことになる。
そこは美しい<棺桶>を売る、風変わりなお店だった。
悩んだり、迷ったり、泣いたり、拗ねたり。
妙が少しずつ成長してゆく様子をユーモラスに描いた、心にしみる物語。
3つの特徴
菫さんとビオレタ
4年近く付き合っていた恋人から、突然婚約破棄された妙。
理由は、「妙を幸せにする自信がなくなった」から。(いやいや、何をおっしゃいますやら。そんな理由で納得するとでも?)
突然の別れ話に道端で泣き崩れる妙。
そんな妙を拾ったのは、妙に威圧感のある無愛想な女性・菫さんでした。
道端で泣くのはやめなさい。泣くのは結構。大いに結構。だけどこんな雨の日に道端にしゃがんで泣くような、そんな惨めったらしい真似はやめなさい。他人に見せつけるような泣きかたをするのはやめなさい。不幸な自分に酔うのはやめなさい。それからそんな風に哀れな子犬のような目でこっちを見るのはやめなさい。
一息にそう言うと、菫さんは引きずるようにして妙を自分の雑貨屋に連れていきます。
泣いていた理由を説明させられ、その後「この店で働きない」と言われる妙。
古くて小さいそのお店を見た妙は、「こんな店で働けと言われても・・・」と思いましたが、店に一歩足を踏み入れた途端に、歓声をあげます。
きれいなもの、素敵なものがたくさん詰まっている宝箱のようなお店。雑貨はすべて菫さんの手作りです。
ほとんど詰問に近い言いかたで「働く?」と訊かれた妙。
お店はかわいい。この人は怖い。かわいいと怖いの板挟みになったわたしは、気づけば「あっ、はい」と答えてしまっていた。
これが、妙と菫さんの出会いでした。
棺桶になにを入れる?
雑貨店「ビオレタ」ではアクセサリーや人形、そして棺桶を売っています。
見た目はただの宝石箱、というよりも菫さんは当初、宝石箱のつもりでこれを作ったらしい。
棺桶を買いに来る人は、若い人からお年寄り、男の人、女の人さまざまです。
棺桶に入れるものは、タバコの吸殻や動かない時計、万年筆など、他人からしてみれば「なぜこれを?」というものばかり。
宝石箱として作ったその箱を棺桶として売るようになった理由を妙に説明した後に、菫さんはこう言いました。
感情でも、記憶でもいいけど、そういうものを埋葬する必要のある人がいて、ならばわたしはその人たちのお手伝いをしてあげたいと思ったのです。行き場のないものを引き受けてあげるぐらいのことはしてあげたいと思ったのです。
そんな菫さん自身は、自分の棺桶に入れているものは「埋めてはいけない背負っていくべきもの」が入っていると言い、決して埋めようとしません。
強い人だと勝手に決めつけていた妙でしたが、菫さんにも抱えているものがあることを知りました。
だれかの庭になる
「失恋の傷を癒すために、とりあえず誰かと付き合おう」
そう思って選んだ相手が、千歳さんでした。
ビオレタのおつかいで、千歳さんのお店(ボタン屋さん)に行ったのが、ふたりの出会い。
菫さんがドーベルマンなら、千歳さんは柴犬。
誰にでも優しくて、みんなから好かれていて、笑った顔が虹のようにきれいな千歳さん。
一緒にいると「とりあえずの人」以上のものを感じてしまいそうで、深入りしないようにと慎重になる妙。
そんな妙の気持ちに気付いていながらも、そばにいてくれていた千歳さん。
「妙ちゃんて、いつもじたばたしてて面白いから」
千歳さんは、妙のことをそんなふうに言ってくれます。悩んで迷って、ひたすらもがいて。ちっとも強くない、そんな妙を。
この人は、と思う。わたしのかっこ悪い部分をこそ、面白くてかわいいと愛してくれる人なのだ、と思う。思って、また泣きそうになる。
自分の気持ちに気づいた妙は、とりあえずではなく、ちゃんと千歳さんと向き合おうと決意します。
「わたしは庭になります」
「必要とされていないのがつらい」「わたしがいなくても誰も困らない」そんなふうに思ってきた妙が、自分の意志で、”だれかの庭になる”ことを決めます。
とても優しくて、それでいて壮大な、愛を伝える表現だと思いました。
本の感想
「あぁ・・・この人の小説好きだなぁ」というのが、最初の感想です。
それから著者の他の作品も読みましたが、今のところ『ビオレタ』がいちばん好きだなぁ。
読み始めるとすぐに、寺地さんの世界観に引き込まれます。
登場人物たちのキャラクターが秀逸で、妙や菫さんはもちろん、千歳さんや蓮太郎くん、妙の家族もみんな素敵。
彼らがたまに吐く毒が小気味よく、とても健やかで見ていて気持ちが良いです。
文章にも独特のユーモアが効いていて、個性とセンスの良さを感じました。
読了後、「素敵な小説だったなぁ」としみじみ思える作品です。
疲れているとき、落ち込んでいるとき、なにかを埋めたいとき・・・そんなときに読みたくなる一冊。
印象に残った言葉(名言)
「わたしはあなたのさびしさを埋めるためにあなたを雇っているわけではない」
「道路がえぐれる!」
「ちゃんと手当てをしないといつまでも痛いんだよ」
「強いっていうのは悩んだり迷ったりしないことじゃないよ。それはただの鈍感な人ですよ」
「ちゃんと自分で「終わらせる」のと、「終わってしまう」のは違う。全然、違う」
寺地はるなさんの他の作品
【No.68】〜風変わりなホテルを舞台に紡がれる優しい物語〜 『ミナトホテルの裏庭には』寺地はるな(著)
この本の総評
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