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こんにちは、ぽっぽです。
今日の一冊はこちら↓
『あのとき始まったことのすべて』中村航(著)
中村さんの小説は『100回泣くこと』しか読んだことがなかったので、今作を読んでみました。
本の概要(あらすじ)
「・・・好きな人と普通に会うって、私には難しいな」
中学時代の同級生、石井さんと十年ぶりに再会することになった僕。
当時の懐かしい思い出、変わらない彼女の笑顔、そしてあらたに芽生えた想い・・・
しかし、一夜を共にしたふたりに待っていたのは、切ない現実だった。
切なくて甘酸っぱくて愛おしい、渾身のラブストーリー。
3つの特徴
甘酸っぱくて切ない
技術営業として働く岡田くんこと僕(二十五歳)は、中学の同級生で、仲の良かった石井さんと再会します。
石井さんの顔や声や笑い方は、昨日までうまく思い出せなかったことだけど、目にすれば瞬時に、こんなにも鮮やかに甦る。
昔と変わらない笑顔で笑う石井さん。
中学時代のことで盛り上がり、今の自分たちの近況や、この十年のことを話し、ふたりは空白の時間を少しずつ埋めていきます。
このあとすぐ、僕らはちょっととんでもないことをしてしまうのだけど、後悔とかは全然なかった。僕は石井さんと再会できて、本当に良かったと思う。それはとても嬉しく、とても大切なことだったと思う。あのとき始まったことのすべてを大切にしたい、そんなふうに感じるのは奇跡みたいなことだと思うから。
お互いに惹かれあっているのに、恋人にはなれないふたり。
そこには彼女のある事情があって・・・
懐かしい思い出
十年ぶりに再会したふたりは、中学時代のいろんな思い出を共有し合います。
学生時代の思い出って、他の人からしたら「なにそれ?」というよくわからないものが多い気がしませんか?
同じ時間を同じ空間で過ごしてきた人たちだから、共有できるもの。
そういったものが、この物語にはあふれています。
・「お土産」を「オドサン」と読んで笑われ、あだ名がドサンになった女子の話
・給食で親子丼が出ると必ず「親子丼できたどーん」と言っていた石井さんの話
・犬にひかれて骨折した同級生の話
・”キラー・ヤナギ” ”タイガー・ジェット・シンジ”と名乗ってプロレスごっこをしていた話
「うまく言えないんだけど、ああ、ちゃんといるんだ、ちゃんと残ってるんだって思った」
恋愛の部分だけでなく、こういった彼らの思い出話も、この物語の魅力だと思います。
女子:手紙、ヘアゴム、リップ、ほのかな恋心、切ない片思い、柔らかな痛み、覚えたてのラブソング
男子:エビ、輪ゴム、バネ、小さな夢、ブルース、虫、壊れかけのレディオ
現在:折り合い、月曜の秘訣、ため息、シーサイドメモリー、週末の余韻、不確かな未来・・・
白原さん
第二章で語り手が白原さんにバトンタッチします。
白原さんも中学時代の同級生で、”僕と石井さんと白原さんと柳くん”の四人で一つのグループでした。
日々の学校生活や修学旅行の出来事、僕と石井さんが忘れてしまっていた思い出なども、この章で知ることができます。
また、僕たちが知らなかった、当時の白原さんが抱えていたものも。
私は多分、まだ、この箱の中で許されていなかった。理由はきっと私が、まだこの箱を許していないからなんだろうと思う。
無口でおとなしい白原さんでしたが、彼女はいつも後ろの席から、前の席の僕と石井さんが笑い合っているのを楽しく眺めていました。
僕と石井さんのコンビが大好きだった白原さん。
物語の最後には、かつての四人グループが再会をはたします。
卒業式に寄せ書きを書いて以来、十一年後に集結した彼ら。
そこで白原さんは、こんなふうに話しました。
「私、岡田くんと石井さんのユニットを愛してたから。ずっとね、二人の話に耳を澄ましてたの。すっと覚えておこうって思ってたの」
この物語に登場する人たちは、みんな少し変わっていて、そしてみんな優しくて。
切ない部分もありますが、全体的にあたたかく優しい雰囲気の漂う物語でした。
本の感想
物語の設定としては、中学時代の同級生と再会して恋をするという、ごくごくありふれた内容です。
けれど、恋愛要素だけでなく、仕事の話やユニークな会話のやりとり、懐かしい思い出話などいろんな要素が含まれています。
恋愛小説とは思えないほど、楽しい時間も切ない別れも淡々と描いているので、物足りない人もいるかもしれません。
でも私は、そんな中村さんの描く、”独りよがりの恋愛”ではなく”きちんとふたりで育む恋愛”がとても素敵だな思いました。
ちゃんと決めた彼女をえらいと思ったし、それを尊重したかった。
僕らは何も失ってはいない。これからだってお互いを尊重した、優しい関係を築いていける。
前回読んだ『100回泣くこと』もそうでしたが、この物語にちょこちょこ登場するキーワードも絶妙です。(妙に私のツボに入ります)
言葉選び、キャラクター設定、雰囲気・・・
内容自体に個性はなくても、そういった部分に著者独特の魅力がよく出ている一冊だと思いました。
印象に残った言葉(名言)
「おでんでんでんででんでんでんでんででん♪」
「ブラジルで一匹の蝶が羽ばたくと、それがテキサスでトルネードになるらしいぞ」
「その子はサラダガールなのか、それともお肉姫なのか、それとも米飯娘なのか?」
「あのね、好きな人のパーカーのフードには、何か入れたくなるんだよ」
「かつて僕は、好きな人のパーカーにエビを入れていた」
中村航さんの他の作品
【No.43】~ありふれた日常の尊さと儚さに気づかせてくれる〜 『100回泣くこと』 中村 航(著)この本の総評
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