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【No.120】日本の社会福祉制度の実態を描いた衝撃の物語『護られなかった者たちへ』 中山 七里(著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『護られなかった者たちへ』中山 七里(著)

爽やかな音楽ミステリーからダークなサスペンスまで、幅広い作品を手がける中山七里さん。

「どんでん返しの帝王」という異名が与えられるくらい、多くの作品で予想を超える驚きの展開をみせてくれるそうですね。

名前はもちろん知っていましたが、読むのは今回がはじめて。

震災後の仙台を舞台に描かれる、驚愕のミステリーです。

「本当に護られるべき者」とは!?

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本の概要(あらすじ)

「あなたにこの物語の犯人はわからない」

 

十月十五日、若林区新井香取の無人アパートで、死体が発見された。

 

被害者は、仙台市の福祉保健事務所課長・三雲忠勝。

 

手足を拘束され、餓死状態で発見されたのだ。

 

財布は手付かずのままで、物取りの線はない。

 

怨恨の線で捜査をするものの、被害者は周囲の誰もが認めるほどの善人であり、恨みを買うような人物ではなかった。

 

行き詰まる捜査のなか、同じ手口で第二の事件が起こり・・・

 

連続殺人事件をめぐって辿り着いた、切なすぎる真実とはーー?

3つの特徴

不可解な連続殺人事件

物語の舞台は、東日本大震災後の宮城県。

とある無人アパートの一室で発見された死体をきっかけに始まる、連続殺人事件。

一人目の被害者は、仙台市の福祉保健事務所課長・三雲忠勝。

二人目の被害者は、県議会議員・城之内猛留。

二つの事件の共通点は、残虐な殺害方法。

拉致され、全身を拘束され、飢えと渇きにじわじわと苦しみながら死んでいった被害者たち。

カネ目当てでもなければ、行きずりの犯行でもない。

考えられるのは怨恨の線だが、被害者の周囲からの評価は「善人」と「人格者」。

ではいったい、なぜ彼らはこれほどまでに残虐な方法で殺されたのか?

地道な捜査で明らかになっていく、二人の被害者を紐づけるひとつの共通項。

捜査線上に浮かび上がった、ひとりの男。

連続殺人事件の裏に隠された、社会福祉制度の闇とはーー?

不条理な社会

社会福祉制度という、難しいテーマをもとに描かれた作品。

本作を読むだけで、「生活保護システム」の裏に潜むいくつもの問題が見えてきます。

予算の問題、人員の問題、不正受給の問題、偏見の問題・・・

本当に護られるべき者たちのためにある、社会福祉制度。

しかし現実では、護られるべき者が護られていないという現状があります。

本当に護るべき者を見て見ぬふりをし、制度の趣旨に反する者が護られている現実があるのなら。不条理な社会だと思わざるをえません。

護られた者と護られなかった者。その境界線はどこにあるのか?

護られなかった者たちの怒りや悲しみ、憤りは、どこへ向けたらいいのか?

私たちの税金は、本当に護られるべき者を護るために使って欲しいね。

映画化

本作は映画化が決定しており、2021年秋に公開が予定されています。

主演の利根役を演じるのは佐藤健さん。捜査一課刑事・笘篠役は阿部寛さんです。

ちなみに、ふたりの共演は「劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル」以来だそう。

監督は「8年越しの花嫁」で佐藤健さんとタッグを組んだ、瀬々敬久監督

その他の共演者として、倍賞美津子さん、吉岡秀隆さん、林遣都さんらの名前が挙がっています。

本書を読んだ上で、私はこの作品の映画化はとても良いんじゃないかなと思いました。

というのは、ここに描かれていることは、誰にとっても決して他人事ではないからです。

日本の社会福祉制度が抱える様々な問題について、貧困について、格差社会について、善悪について。

本作に込められたメッセージをたくさんの人が受けとり、それぞれが考えるきっかけになってくれたらなと思いました。

映画公開前に、原作を読んでみてくださいね!

本の感想

初めて読む作家さんの小説なので少し身構えていましたが、予想以上にスラスラ読めました。

 

文章といい、構成といい、雰囲気といい、全体的に東野圭吾さんの作品とよく似ているような気がします。

 

事件の真相については途中で察してしまったので、正直<どんでん返し>の驚きというのはありませんでした。

 

わりと王道なので先の展開は読めてしまうものの、先へ先へとページをめくる手はとまらず。

 

生活保護制度の実態に切り込んだ内容なので、とてもフィクションとは思えない重さがありました。

 

残虐な連続殺人事件。犯人像も動機もわからないうちは、被害者やその家族に同情しました。

 

しかし、視点が変わると一転して被害者たちの二面性が見えてきて。

 

彼らの二面性を生んだ原因が、生活保護の仕事だとしたら。その闇の深さを感じずにはいられません。

 

すべての非が彼らだけにあるとは思いませんが、彼らが護るべき者を護らなかったのも事実。

 

殺されてもいい人間は存在しない。復讐を正当化してはいけない。

 

そう頭では理解していても、私は正直犯人に共感してしまう部分もありました。

 

というか、思いっきり肩入れしながら読みました。

 

彼らは、自分の護るべき者を護るために、必死になって行動を起こしただけ。

 

それが結果的に、犯罪だったということなのだと思います。

 

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印象に残った言葉(名言)

「犯罪には例外なく欲望が介在する。金銭欲・独占欲・性欲・破壊欲。結局のところ動機や犯罪態様は、その欲望から派生するものだ。従って、どんな犯罪であろうと、根源の部分の欲望がどのようなものか類推さえできれば、そのかたちも見えてくる」

 

「人から受けた恩は別の人間に返しな。でないと世間が狭くなるよ」

 

「厚意とか思いやりなんてのは、一対一でやり取りするようなもんじゃないんだよ。それじゃあお中元やお歳暮と一緒じゃないか」

 

「敵を作るより味方を作っておいた方がいい。味方が多い人間は強いよ。そして強い人間に盾突こうとするヤツは少ない。どっちが楽だと思う」

 

「生活困窮者は収監されている犯罪者よりも護られる順位が低いと信じているのだろうか」

 

「悪の道に走った者を本気で更生させたいのなら、善人の中に放り込むのが筋だろうに」

 

「そいつの部屋の中に置いてあるものは煩悩そのものだ」

 

「心に受けた傷は金銭や安定した生活で塞がるものではない。時間の経過では和らぐものではない」

 

「法律はお前が考えているよりも公正だ」

 

「世界はあんたが考えているほど公正じゃない」

 

「いつだって、どこにだって、自分の見たものだけを信じようとする人間がいるんだ」

この本の総評

読みやすさ
(5.0)
文章
(4.0)
どんでん返し
(3.0)
読後感
(4.0)
総合評価
(4.0)

 

 

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