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【No.172】旧友を捜しに”激動の東欧”を旅した著者によるドキュメンタリー小説『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里 (著)

こんにちは、ぽっぽです。

今日の一冊はこちら↓

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里 (著)

子ども時代をプラハのソビエト学校で過ごした著者による、ノンフィクション小説。

音信不通になってしまったかつての友人たちと、激動の東欧で再会するまでが描かれています。

かなり前の作品ですが、”戦争”という言葉を無視できなくなってしまった今だからこそ読みたい一冊。

米原さんがご存命なら、この現状をどう見るのでしょうか……

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本の概要(あらすじ)

「それは抜けるように青いのよ」

 

9歳から14歳までの多感な時期を、プラハのソビエト学校で過ごしたマリ。

 

当時仲良くしていたのは、おませなギリシャ人・リッツァ、嘘つきだけれど愛されキャラのルーマニア人・アーニャ、そしてクラス一の優等生・ルーゴスラビア人のヤスミンカ。

 

日本に帰国し、彼女たちとの別れから数十年が経った今。

 

どうしてもかつての友人たちに会いたい衝動を抑えきれないマリは、居場所も連絡先もわからない彼女たちを捜しに激動の東欧へ旅立つがーー。

 

著者の実体験を綴った、今だからこそ読みたいノンフィクション小説。

3つの特徴

個性豊かな三人の友人

著者が子ども時代を過ごした、プラハのソビエト学校。

様々なバックボーンを持つ友人たちの中でも特に仲が良かったのは、ギリシャ人のリッツァ・ルーマニア人のアーニャ・ユーゴスラビア人のヤスミンカ。

子どもらしい無邪気さを纏いながら、子どもとは思えぬ強い思想と信念を持つ彼女たちには度々驚かされました。

こんなにも自国を愛して誇りに思い、それを堂々と語れる子どもが現代の日本にどれほどいるのでしょうか。

もちろん自国への強い思いは子どもたちに良い影響を与えるばかりではないと思います。

ときにはそれが足枷になったり、アイデンティティを揺るがす要因になったりするのかもしれません。

望む望まないに関わらず、彼女たちにとって”愛国心”とアイデンティティは切り離せないものなのかもしれないなと思いました。

彼女たちを見ていると、日本は好きだけれど愛国心と呼べるほどのものは持ち合わせていない自分が、なんだか根無草のように思えてきます。

リッツァもアーニャもヤスミンカも、みんなそれぞれ個性豊かで魅力的で。

生まれた国も価値観も異なる友人たちと過ごした時間は、著者にとってかけがえのないものだったのだということが、生き生きとした文章から伝わってきます。

極上のドキュメンタリー

本書には東欧の歴史やそれに紐づくさまざまなテーマが内包されていますが、大きなテーマは「旧友たちの再会」

物語は三部構成。リッツァ・アーニャ・ヤスミンカ、それぞれと大人になって再会するまでを描いたドキュメンタリーになっています。

9歳から14歳までをプラハで過ごした著者ですが、日本に帰国してからは一度も彼女たちと会うことはなく。

しかし大人になった著者は意を決し、住所も連絡先も行方もわからない彼女たちを、日本を飛び出して捜し始めます。

そこまでして会いたいと思える気持ちはもちろん、実際に動き出せるその行動力には思わず目を見張りました。

彼女たちを捜す過程で複雑な社会情勢を目の当たりにした著者が、何を見て何を思ったのか。

教科書だけでは知り得ない当時の現状が、著者の冷静な目を通して描かれています。

過酷な道のりで期待と不安を抱えながら、ようやく再会できた瞬間は思わずこちらも嬉しくて。

数十年ぶりの再会でも、こんな風に喜び合って抱き合える友人に出会えた著者が純粋に羨ましいです。

ヤスミンカとの子ども時代のエピソードが特に好き

映像とともに

本書の内容はNHKの「世界わが心の旅」でも特集されていたようで、youtubeにも動画がありました。

本の中では想像上の人物でしなかったリッツァたち本人を観ることができて、本当にノンフィクションなのだなとより実感が湧き。

(本書にも登場する「思い出帳」の実物も登場します!)

行ったことのない外国の風景は文章だけだと想像しづらいので、こういった映像で補うのも良いものだなと思いました。

ただやはり本書の方が内容がぐっと濃くなっているので、映像を観たことがある方はこちらも合わせて読むことをおすすめします。

本の感想

タイトルと表紙からファンタジー系かな?と想像していたら、まさかのノンフィクション小説で、しかもけっこう重たそうな内容。

 

世界史やカタカナ表記が苦手な私は「これ最後まで読めるかな……」と不安になりましたが、気がつくと夢中になって読み進めていました。

 

私と同じように最初は抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、ぜひ諦めずに読み進めてみてください。

 

本書で描かれている東欧の歴史、プラハの春やユーゴスラビア戦争などは、私にとっては教科書に載っている程度の知識でしかなく。

 

(しかも大半は忘却の彼方へ)

 

実際にその時代を生きていた人たちの暮らしや思いに想像を巡らせたことがなかったのだと気付かされました。

 

本書は友人たちの消息を追うドキュメンタリー小説ですが、人種、民族、戦争、愛国心、アイデンティティなどの様々なテーマを同時に追いかける内容でもあって。

 

時代の波に翻弄されながらも、強く逞しく生きる人々の姿が力強く描かれています。

 

この機会にぜひ一度読んでみてほしい作品。

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印象に残った言葉(名言)

「実際に目に映っているものでも、脳みそのスタンスによって、まったく見えないことがあると気付かされたからだ」

 

「マリ、一度ペンで書かれたものは、斧でも切り取れないのよ。だからこそ、価値があるの。すぐに消しゴムで消せる鉛筆書きのものを他人の目に晒すなんて、無礼千万この上ないことなんですよ」

 

「異国、異文化、異邦人に接したとき、人は自己を自己たらしめ、他者と隔てるすべてのものを確認しようと躍起になる。自分に連なる祖先、文化を育んだ自然条件、その他諸々のものに突然親近感を抱く。これは、食欲や性欲に並ぶような、一種の自己保全本能、自己肯定本能のようなものではないだろうか」

 

「社会の変動に自分の運命を翻弄されるなんてことはなかった。それを幸せと呼ぶなら、幸せは、私のような物事を深く考えない、他人に対する想像力の乏しい人間を作りやすいのかもね」

 

「あの頃は、世の中のことすべて白か黒かで割り切っていた。今では、白か黒かなんてあり得ない。現実は灰色をしているものだって学んだけれど」

 

「異教徒に対して寛容にならなくちゃいけないんだ。それが一番大切なことなんだ」

この本の総評

読みやすさ
(3.0)
雰囲気
(4.0)
ドキュメンタリー
(5.0)
読後感
(4.0)
総合評価
(4.0)

 

 

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